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バーチャルPPAとは?概要やメリットを簡単に解説

「バーチャルPPA」という言葉をご存じでしょうか?バーチャルPPAは、太陽光などの再生可能エネルギーを利用して発電した電力の、ひとつの利用形態です。環境経営に取り組む企業がこのバーチャルPPAスキームを導入すると、自社の二酸化炭素(CO2)排出量削減目標の達成に大きく寄与できる可能性があります。

この記事では、バーチャルPPAの仕組みとメリット・デメリットについて解説します。バーチャルPPAを導入した実例もご紹介しますので、自社のCO2排出量を削減する方策を模索している企業の経営者、ご担当者の方はぜひ参考にしてみてください。

バーチャルPPAとは

バーチャルPPAとは、太陽光などの再生可能エネルギー発電所から供給される電力から「環境価値(※1)」を切り離して取引できるようにするスキームです。

※1・・・太陽光や風力など二酸化炭素(CO2)を排出しない方法で発電された電力が持つ「地球環境に負荷を与えない」という価値のこと。

PPAとは「Power Purchase Agreement」の略で、日本語では「電力購入契約」と訳されます。PPAは発電事業者と需要家による直接の電力の売買契約のことで、特定の発電所で得られた電力を一定の単価で供給する期間を取り決めます。発電所の設置や維持管理には多額のコストが掛かることから、発電事業者は投資回収を確実なものとするために最低でも5年、長ければ20年以上に渡る長期の供給契約を求めることが一般的です。

PPAの中でも、民間企業間によるPPAを「コーポレートPPA」と呼び、契約の対象となる発電所がどこに位置するかによって「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」の2種類にさらに分類されます。

オンサイトPPAとは、電力の供給を受ける企業の敷地内にある建物の屋根や遊休地に発電事業者が発電所を設置し運営するもので、多くは屋根置きの太陽光発電所になります。オフサイトPPAは、敷地外に建設した発電所から電力を調達して需要場所に供給します。

オンサイトPPAとは?オフサイトPPAとの違いや今注目される理由を解説

オフサイトPPAは、電力と環境価値を一緒に取引する場合と環境価値のみを取引する場合の二つに分けられます。

前者は実際に電力を送電するという消費電力の供給実態を伴う事から「フィジカルPPA」と呼び、後者は需要場所に送電せず環境価値という仮想的な概念のみを取引するため「バーチャルPPA」と呼びます。

【フィジカルPPA概念図】

【バーチャルPPA概念図】

参考:環境省HP オフサイトコーポレートPPAについて

バーチャルPPAの仕組み

導入する手順としては、次のようになります。ここで重要なのは、電力の購入者は従来通りの電力購入方法を維持できる点です。

①発電事業者と電力の購入者間で、再生可能エネルギー電力の供給価格および期間に関するPPA契約を締結する

②発電事業者は、発電した電力を市場又は電力会社へ市場価格等で供給し、売電収入を獲得する

③発電事業者と電力の購入者は、PPA契約の価格と②の市場価格等の差金を互いに精算する

④発電事業者は再生可能エネルギーを利用した発電であることを示す非化石証書を、電力の購入者へ移転する

⑤電力の購入者は市場または電力会社から通常通りに電力を購入する

参考:環境省HP オフサイトコーポレートPPAについて

非化石証書については過去のコラムでも説明していますので、ご参照下さい。

非化石証書とは?分類やメリットを解説!

バーチャルPPAのメリット・デメリット

ここでは、バーチャルPPAを導入する事のメリットとデメリットについて解説します。

バーチャルPPAのメリット

バーチャルPPAは、発電事業者と電力の購入者いずれにもメリットがあります。電力の購入者(企業)はバーチャルPPA契約を活用することによって、非化石証書という環境価値が手元に残ります。

非化石証書を利用して企業はカーボン・オフセットを実施し、自社の事業で排出するCO2の削減量として取り扱うことが可能になります。

従来からの電力の調達方法を変える必要が無く、大きな出費を伴う設備投資も不要であり、長期的に当該発電所の環境価値を得られるため、CDPSBT、RE100などの環境経営を具体的な数値化する評価制度に取り組む企業にとっては、大きなメリットが得られると言えるでしょう。

一方で、発電事業者は、発電した電力をすべて市場に売却することになります。

この場合、売電収益はそのときの市場価格によって大きく変動しますが、バーチャルPPA契約においては、市場価格との差金が電力購入者から補填されます。

つまり、発電事業者の収益が一定になるようにPPA契約による固定価格と市場価格との差額を精算する仕組みが働くということです。

そのため、発電事業者にとってバーチャルPPAは売電収益を長期にわたり固定化できるというメリットがあります。

(フィジカルPPAとバーチャルPPAの市場価格に対する対応の違い)

 市場価格下落時市場価格高騰時
フィジカルPPA発電事業者:価格固定により損失回避 購入者:価格固定により機会損失発電事業者:価格固定により機会損失 購入者:価格固定により損失回避
バーチャルPPA発電事業者:機会損失分の補填を受領 購入者:機会損失分の補填を支払発電事業者:超過収入分の補填を支払 購入者:超過収入分の補填を受領

バーチャルPPAのデメリット

バーチャルPPAにはフィジカルPPAとして比較して下記のようなデメリットもあります。

■市場価格が下落するリスク

バーチャルPPAの場合は市場価格とPPA契約の差金が電力購入者から補填されますが、市場価格が長期に渡って下落トレンドにある場合が問題となります。

その場合、電力の購入者から発電事業者に対する補填が常態化し、一方通行化する可能性があり、購入者にとってはメリットの無い契約となる恐れがあります。

特に九州地方など太陽光発電が広範囲に設置されており、日中に供給過多となって市場価格の下落が進行しやすい地域においては注意が必要です。

■会計処理上の課題

バーチャルPPAはあらかじめ取り決めた金額で電力の購入を予約するという仕組みのため、商品先物取引に相当する可能性があります。

いわゆるデリバティブ (金融派生商品) 契約に該当するとされた場合に、企業会計処理上の整理が必要となるでしょう。

導入に際しては、自社の税理士や会計士との協議が欠かせません。

バーチャルPPAの事例

・米Apple社の取組み

米国のApple社は、米国、英国、中国そしてインドを含む世界43カ国にある直営店、オフィス、データセンターそして共用施設で使用する消費電力を再生可能エネルギー100%にすることに成功しています。この実現にはバーチャルPPAが大きく貢献しており、同社との取引によってバーチャルPPAスキームに利用される再生可能エネルギー発電所の合計出力は420MWにも達しています。

・米Amazonの取組み

Amazon社では2040年までにCO2排出量を実質ゼロに、2025年までに世界中の全ての事業で100%再生可能エネルギーを利用すべく取組を進めており、2021年時点での再生可能エネルギー利用率は85%に達しています。

アメリカではバーチャルPPAの導入事例がPPA契約の80%を占めており、Amazon社も自社のカーボン・オフセットに活用しています。

日本国内においても三菱商事と提携してコーポレートPPAを活用した集約型太陽光発電プロジェクトを進めており、今後年間2300万kWhもの再生可能エネルギー電力が供給される予定となっています。

・東急建設の取組み

東急建設では、国内の建設業界で初めての取り組みとなるバーチャルPPAのスキームを活用して建設現場へ再生可能エネルギーの導入を計画しています。

クリーンエナジーコネクトが東急建設専用に用意する合計4MWの「非FIT低圧太陽光発電所」から、環境価値を購入します。これにより、年間約440万kWh分の電力環境価値の導入となり、これはCO2排出量に換算すると1900tの削減に相当します。

日本におけるバーチャルPPAの課題

日本では海外と比較してバーチャルPPAの導入が進んでいません。なぜなら、日本では国に登録した小売電気事業者しか個人や企業に電力を販売することができないからです。

需要家が環境価値を発電事業者から直接購入することが認められていないため、需要家と発電事業者との間を小売電気事業者が仲介しています。日本では、2022年度より開始のFIP制度を活用することで、間接型オフサイトコーポレートPPAを実現することが可能です。

まとめ

ここまで、バーチャルPPAの概要と仕組み、そのメリット・デメリット、課題などについて解説してきました。企業はバーチャルPPAのスキームを利用して、従来の電力調達方法を変えずにカーボン・オフセットをすることが可能となります。また、バーチャルPPAの導入は再生可能エネルギー発電所への投資を促進させる効果もあるため、今後の国内普及に向けた制度の整備が待たれる分野です。

現在、環境に関するご相談につきましてはプロレド・パートナーズのグループ会社であるナレッジリーンにて対応させていただいております。ナレッジリーンでは、脱炭素経営やカーボンニュートラル戦略の策定、環境分野の調査業務、計画の立案等、企業の環境経営全般に対する専門的なコンサルティング支援を行っています。環境に関する取り組みでお悩みの際は、ナレッジリーンまでお気軽にご相談ください。

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