政府の掲げる「2050年カーボンニュートラル」を実現するためには、製品の販売やサービスの提供といった企業活動においても、二酸化炭素を代表とする温室効果ガス排出量を削減しなければならないという考え方が広まってきています。
排出量の削減においては、自社での生産や提供に掛かる部分のみならず、調達や輸送・保管といったサプライチェーン全体での排出量を削減することが重要です。市場においても温室効果ガスの排出量が少なく、環境にやさしい製品やサービス(グリーン製品)を消費者が選択できるような仕組みを創り出す必要があり、その手法として注目を集めているのが「カーボンフットプリント」です。
本記事ではカーボンフットプリントの概要と算定方法、メリットなどについて解説します。国内企業の導入事例についてもご紹介しますので、経営者やサステナビリティご担当の方はぜひ参考にしてください。
カーボンフットプリント(CFP)とは

カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、製品やサービスが生産されてから役割を終えるまでの過程(ライフサイクル)で排出された二酸化炭素の量を表示する仕組みです。カーボン(炭素)排出のフットプリント(足跡)を追跡して算出する、という意味合いになります。
缶飲料を例に取ると、原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクルは次のようになります。
①原材料調達
- アルミ缶製造
- 砂糖キビ栽培
②生産
- ジュース製造
- パッケージング
③流通・販売
- 輸配送
- 冷蔵輸送・販売
④使用・ 維持管理
- 家庭での冷蔵庫保管
⑤廃棄・リサイクル
- 空き缶収集
- リサイクル処理

①〜⑤の各段階の温室効果ガスの排出量を追跡して、算出された全体の量を二酸化炭素(CO2)量に換算して表示するのがカーボンフットプリントです。
カーボンフットプリントが注目される理由

「国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)」では、地球温暖化による気候変動の影響を最小限に留めるために産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えるという目標に合意しています。その目標の実現には、世界のCO2排出量を2030年までに2010年比で45%減らし、2050年には世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする必要があると言われています。
日本政府もこの目標に対応するかたちで「2050年カーボンニュートラル」、「2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比46%に削減することを目指し、さらに50%に向けて挑戦を続けていく」という高い目標を国際社会に向けて表明しています。
こうした国際社会における脱炭素化の動きを進めるにあたって、カーボンフットプリントに取り組むことで、企業や団体単位での排出量削減目標だけではなく、個々の製品やサービスごとの温室効果ガス排出量を包括的かつ詳細に把握できます。ボリュームゾーンとなる排出箇所や大きな排出源が定量的に分かるため、効率的に削減対策の検討・推進が可能となり、カーボンフットプリントの情報開示を行うことで、サプライチェーンからの評価向上が期待できます。
また、プレスリリースやウェブサイト等での開示や、製品にカーボンフットプリントマーク表示を付けることで、消費者へのPRができます。
カーボンフットプリントの算定方法

カーボンフットプリントを算定するには、経済産業省の定めるガイドラインに沿って次のような手順を取ります。
Step1 カーボンフットプリント算定方針の検討

(1)目的の明確化
まずはカーボンフットプリントを算定する目的を決めることが重要です。目的により要件が異なるうえに、ISOなどの国際基準ではカーボンフットプリント算定の具体的な方法までは現状では定められていません。客観性や正確さに必要な基準は、目的に合わせて算定者が決めることになります。
(2)対象製品の選定
算定の目的を踏まえて、算定によるインパクトと想定される算定工数の両面から検討し、算定対象製品やサービスを選定します。
(3)対象とするライフサイクルステージの決定

選定した製品やサービスごとに算定対象とするライフサイクルステージを決定します。BtoC製品とBtoB製品では、必要とされるライフサイクルステージが異なることに注意が必要です。
(4)参照規格・基本方針の決定
算定にあたって参照する規格やガイドライン(ISO 14067:2018など)、また基本方針を決定します。
Step2 カーボンフットプリント算定範囲の設定
(1)バウンダリーの設定

(ライフサイクルフロー図の作成)
算定対象とする製品やサービスのライフサイクルステージの各プロセスをひとつの図に落とし込んだ「ライフサイクルフロー図」を作成します。ライフサイクルフロー図を作成することで対象製品の温室効果ガス排出源を網羅的に洗い出し、算定の対象範囲(バウンダリー)を明確にします。
(2)カットオフの基準の検討
算定対象とした全てのプロセスについて温室効果ガスの排出量を算出するのが理想ですが、全体に及ぼす影響が小さく算定が難しいプロセスはカットオフする(算定しない)判断も可能です。
(3)算定ルールの設定・算定手順書の作成
具体的な算定のルールを決め、算定手順書を作成します。算定手順書は社内の情報共有用として作成するもので、対外への公表は不要ですが、第三者検証を依頼する際や将来的に再算定する際にも利用できます。
(4) 算定ツールの用意・データの入力
アプリケーションや表計算シートなどの算定ツールを用意します。
Step3 カーボンフットプリントの算定
用意した算定ツールに算定手順書で決めたプロセスごとの活動量と排出係数の具体的な数値を入力し、カーボンフットプリントを計算します。
Step4 カーボンフットプリントの検証・報告
(1)CFP算定報告書の作成
「CFP算定報告書」はカーボンフットプリントの算定結果や算定方法をまとめたものです。国際基準であるISO14067(2018 7.3)で20の記載項目が定められており、それに従って作成します。
(2)表示・開示の実施
製品やサービスのカーボンフットプリントの効果的な伝え方、使用する発信ツール・広告媒体を検討します。企業のプレスリリースやウェブサイトで告知をするとともに、製品そのものに表示することも考えられます。
第三者機関で認証されたカーボンフットプリントには「カーボンフットプリントマーク」が使用できますので、商品パッケージや店頭POPなどでの表示が可能になります。

出典:CFPプログラム
カーボンフットプリントの課題

カーボンフットプリントはまだ大々的に普及、浸透しているとは言えず、今後拡大するための課題がいくつかあります。
正確性・客観性の確保が難しい
製品やサービスのライフサイクルが多岐にわたり複雑であること、CO2排出量のデータが不足していること、CO2排出量の計算方法が統一されていないこと、などが課題として挙げられます。
算出に専門知識と時間を要する
カーボンフットプリントの算出にはサプライチェーン全体での協力も必要となるため、専門知識と時間を要します。そのため算出できる人的リソースが多くの企業では不足しており、それが拡大を阻害するひとつの原因となっています。算出に当たっては、環境コンサルタントなどの外部リソースを活用することも視野に入れるべきでしょう。
日本企業のカーボンフットプリントの取り組み事例

カーボンフットプリントの性質そのものの課題はあるものの、国内においても自社の製品やサービスにカーボンフットプリントを表示し、競合他社と差別化を図るとともにステークホルダーに環境経営をアピールする企業が増えています。
ここでは、日本企業のカーボンフットプリントの取り組み事例を三つご紹介します。
株式会社明治の事例
食品メーカーの株式会社明治では、国内で初めて牛乳生産に関わるカーボンフットプリントを算定しました。
自社商品の「明治オーガニック牛乳」について、酪農家の協力のもとで経営にかかる実データの収集を実施した結果、原材料の購入・輸送に関わる「上流」の工程が温室効果ガス排出量全体の91%にものぼるというということが明らかになりました。
この結果を踏まえて、よりサステナブルな酪農経営の実現に向けてサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減の取り組みを進めています。
参照:株式会社明治 【サステナブルな酪農の実現に貢献する取り組み①】
アトランド株式会社の事例
三菱商事株式会社とマルハニチロ株式会社が合弁で設立したアトランド株式会社では、富山県入善町でサーモンの陸上養殖事業を実施しています。養殖サーモンはこれまで、ノルウェーやチリなど遠隔地にある生産拠点から船や航空機を使って輸入することが多数でしたが、それを日本国内で作る「地産地消」を推進することで流通に掛かるカーボンフットプリントを大幅に削減できます。
参照:朝日新聞HP サーモンの陸上養殖は、EX・DXで進化する
株式会社チヨダの事例
「シュープラザ」や「東京靴流通センター」などの小売店舗を運営する製靴メーカーの株式会社チヨダは、PB「HYDRO-TECH(ハイドロテック)」の一部の製品について、環境省が実施する「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」へ参加しています。
原材料の調達から生産、流通・販売、使用、廃棄またはリサイクルに至るまでの各工程におけるカーボンフットプリントの算定を実施し、消費者に分かりやすく伝える取り組みを推進しています。
参照:株式会社チヨダHP プライベートブランド「HYDRO-TECH」新製品におけるCO₂排出量見える化へ向けた取り組みに関するお知らせ
まとめ
本記事ではカーボンフットプリントの概要と算定方法、取り組み事例などについて解説してきました。
カーボンニュートラルへの流れに対応してカーボンフットプリントの概念が徐々に浸透し、サプライチェーンからの要請を受けるケースや、サプライチェーンからの評価向上を狙って、カーボンフットプリント算定の取り組みを進める企業や団体も増えています。カーボンフットプリントの導入の際には、自社が算出に取り組む目的を明確にすることが何より大切でしょう。
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