SCM/物流

物流KPIの設定はどのように行う?KPIの導入方法について説明します

前回のコラム「物流KPIとは?設定するメリットや導入の際に押さえるべき注意点について解説!」では、物流KPIとは何か?について解説しました。物流KPIの導入目的やメリットについてご理解頂けたと思います。

しかし、いざKPIを導入するとなると「何から始めれば良いか?」、「どのようにKPIを設定すれば良いか?」など、迷う方もいるのではないでしょうか?今回のコラムは、実際に物流KPIを設定する際に留意すべき点と導入の進め方について解説します。

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KPI導入はSMARTに実施する

まずは、物流KPIの設定方法について解説します。前回のコラムにも記載しましたが、物流KPIの導入において注意すべき点は、対象範囲が広すぎたり、目標が高すぎたりしないことです。対象範囲が広すぎると、関係者間で管理したり、改善したりする際の注視するポイントがバラバラとなり、目標達成の障害となります。また、高すぎる目標設定も実際に業務にあたるメンバーの意欲を削いでしまいます。

そのような状況を発生させないために、SMARTモデルに沿ってKPIを導入します。

SMARTモデルは次の単語の頭文字を合わせたものになります。

  • Specific:具体的な
  • Measurable:計測可能な
  • Achievable:達成可能な
  • Relevant:関連した
  • Time-bound:期限のある

実際のSMARTモデルを活用したKPI設定について、「倉庫のコストを5%削減する」という目標を例に挙げて、考えてみましょう。

【最終目標】倉庫コストを5%削減

SMARTモデルを利用したKPI導入

Specific:具体的な

関係者の認識を共通化できる、明確で分かり易い業務を指標とします。

関係者とは、倉庫内の管理者・作業者だけではなく経営陣も含めます。「倉庫コストを5%削減」は倉庫内の作業者にとっては広すぎる目標となります。一方で、細かすぎる作業をKPIとして設定しても経営陣には伝わりません。

今回は関係者がイメージし易く、倉庫コスト全体に対する比率も高い「ピッキング生産性」をKPI指標として設定し説明いたします。

*ピッキング生産性:倉庫作業者1人当たりが1時間にピッキングできる数量
(数量=ピース数、カートン数、ライン数等)


Measurable:計測可能な

達成度が定量的に評価できる指標とし、計測し易さも考慮に入れます。

「ピッキング生産性」は以下の式より計算します。

1日の合計ピッキング数量/ピッキング作業に従事した倉庫作業者の合計作業時間(人時)

合計のピッキング数量はWMSの出荷確定データから抽出できます。人時は、作業リーダーなどが複数の業務を兼任するケースや、出荷検品作業者が手待ち時間にピッキングを手伝うこともあり、厳密な計算が難しい現場もあります。その場合は、あらかじめリーダーを人時の集約から除くことや、生産性の範囲をピッキングだけなく検品まで広げることも検討しましょう。

集計を厳密に行うことが重要なのではなく、定義した計測方法を変えずに継続することが大切です。


Achievable:達成可能な

プロジェクトの期間で達成可能な数値目標とする

KPIの目標値の意味合いには大きく2つあります。品質維持を目標とした場合は「設定した数値を下回らない」となり、改善を目標とした場合は「設定した数値を上回る」となります。いずれの場合も、未達の状況が続くと、未達でも問題が無いという認識が生まれてしまいます。達成するという強い意志が無ければ目標達成はありませんので、モチベーションが維持できる目標とすることが大切です。

「倉庫コストの5%削減」に必要とされるピッキング生産性が90PCS/人時だったとしても、導入時の実力値が70PCS/人時と差が大きく、3ヶ月程度での達成が難しいと想定される場合は、80PCS/人時を中間目標として、KPIの目標数値にします。



Relevant:関連した

最終的なゴールに直結した指標とする

Specificで記載した分かり易さに加え、設定する指標が最終目標に強く関連していなければいけません。ピッキングは倉庫作業の中でも多くの作業者を必要とするケースが多く、「倉庫コストの5%削減」への影響度も高くなりますので、適切な設定と言えます。


Time-bound:期限のある

達成期限があること。KPIは中間目標であるため、いつまでに達成するかを明確にする。

KPIを導入する場合は、プロジェクト期間に沿ってKPIの目標達成期限を設定しましょう。期限の目安は3ヶ月です。3ヶ月ごとに達成度を評価し、改善など実施した施策の振り返りを行います。

詳細にご興味のある方は、過去コラム「物流費のコスト削減が実現できるプロジェクト・サイクルとは」をご覧下さい。

SMARTに検討した結果、最終目標である「倉庫コストを5%削減」に対し、以下をKPIの目標の1つとして設定します。

【KPI指標】ピッキング生産性80PCS/人時(目標達成の期限:3ヶ月)

物流KPI導入の進め方

KPI設定時に押さえるべきポイントについてご理解頂けたところで、導入のステップを見ていきましょう。以下の4ステップで進めることができます。

【物流KPI導入の4ステップ】

  1. 荷主企業と物流企業の合意
  2. 導入スケジュールの作成
  3. KPIの設定
  4. 運用ルールの策定

【1.荷主企業と物流企業の合意】

荷主企業と物流企業で、KPIの方針について合意する

荷主企業が3PLなどの物流企業に委託している場合、物流KPI導入の最初のステップは、荷主企業による物流企業との合意です。物流KPIデータの多くは物流企業が管理しているため、業務を委託している物流企業の協力を得る必要があります。KPIを活用した改善活動を成功させるには、荷主企業の課題を物流企業が認識するだけなく、物流企業の懸念を荷主企業側も理解することが重要です。

物流企業の懸念① KPI数値の取得と作成に新たな工数がかかる

KPIは複数の情報やデータを組み合わせて1つの指標となるため、数値計算やKPI資料作成に工数がかかります。例えば、ピッキング生産性は次の2つのデータから計算します。①出荷実績データの出荷数量、②ピッキングに従事した作業者の作業時間。①のデータはWMSから抽出できますが、②のデータは、システムで管理されていないことが多いため、マニュアル集計が必要です。

物流企業の懸念② 料金単価を下げられてしまうのではないか

荷主企業が物流KPIを導入する理由の多くが、物流コストの把握や適正化です。そのため、物流企業の売上や利益を減少させる可能性がある取組みと言えます。KPIの改善結果が請求単価に反映されてしまうのではといった懸念や、設定するKPIから物流企業のコスト構造が推測できるのではといった不安が物流企業にあります。

このように、物流企業にとっては、KPI導入のデメリットが見えています。しかし、燃料費や人件費など物流企業にとっての原価は上昇を続けており、物流KPI導入による効率化が実現すれば、荷主企業だけでなく物流企業にとってもメリットのある取組みと言えます。そこで荷主企業と物流企業が同じ方向を向いて進むためのポイントを2つご紹介します。

①    荷主企業のKPI改善への積極的な参画

  • 物流企業任せにせず、荷主企業も主体的に改善を実施する
  • 物流部門内にとどまらない他部門を巻き込んだ全社的な取組みとする

荷主企業の参画例

  • 入出荷指示データのバッチ頻度、スケジュール、発注ロットの変更を行う
  • WMS改修や倉庫内設備の変更も検討する
  • 物量フォーキャスト精度を改善する
  • キャパシティやL/Tの要件を緩和し作業量の平準化を図る

物流企業の作業は、荷主企業からの指示を受けて始まる受身的な要素があり、指示の内容や傾向は物流企業の効率や品質に影響を与えます。KPI改善の成果をより大きくするためには、荷主企業側の改善(スキーム変更等)も有効となります。荷主企業側の物流部門が営業部門など他部署へ積極的な働きかけを行い、荷主企業全体として取組むことが、物流企業に対して本気度を示すこととなり、KPI改善の取組みを活性化させます。

②    物流KPIのコスト適正化への反映方法

  • KPIに関する取組みにより明らかになった、物流企業のコスト構造を基にしたコスト削減を要請しない

効率に関するKPIを導入すると、物流企業の作業コスト構造が把握し易くなりますが、それを利用した料金交渉を行うのではなく、KPI導入により効率化できた物流企業のコストを対象として料金の交渉を行うようにします。また、必要に応じてゲインシェアリングの導入も検討します。

【2.導入スケジュールの作成】

次に、物流KPI導入に向けてのスケジュールを作成します。初めてKPIを導入する場合は、最初のKPI結果が物流企業より報告されるまで、概ね1.5か月程度かかります。KPIは重要な基準作りでもありますので、「取り敢えずやってみよう」ではなく、計画的な実行が成功への近道となります。必要なアクションは次の通りです。

【3.KPIの設定】

金額 メモ

“あれもこれも”は避ける、スモールスタートが成果への近道

物流KPIの種類は非常に多く、KPIを設定するタイミングで、“あれもこれも”とKPIが増えてしまう傾向にあります。しかし、導入の目的(コスト適正化、売上向上など)に沿ったKPIに限定して、項目を絞りスモールスタートとすることが、荷主企業と物流企業の双方にとって改善成功への近道です。理由は2つあります。

1.KPI導入の早期化
荷主企業:要件定義とターゲット設定時の工数が低減できる
物流企業:数値を取得する準備工数が低減できる

2.成果創出の早期化
改善対象の範囲が絞られることにより、PDCAのサイクルが短縮できる

また、KPI項目は定義を明確にする必要があります。取得する数量の単位、対象業務の範囲、人時の取得方法など、それぞれの数値についてルールを定め、過去との比較や同一業務を行っている他拠点との比較が出来るようにしておきます。以下に例を記載します。

【KPI定義例:ピック生産性】

  • 数量:単位はPCS、数量は当日作業分とし残業時間に作業を行った分も含める
  • 範囲:現場作業者のピッキングリスト仕分け、ピッキング、オーダー仕分け、検品エリアへの移動
    *イレギュラー対応(現物欠品への対応など)を含めない
  • 人時:リーダー以外の倉庫作業者を対象とし、休憩時間や他業務に従事した時間は含めない

人時の取得は、その精度にこだわり過ぎないようにしましょう。精緻に人時を取得するためには、各倉庫作業者に従事した作業内容を時間ごとに記録させる必要があります。さらに、作業者数や対象業務が多い現場では、作業終了後の集計にも時間を要します。KPIはその数値変化を捉えていくことが主な目的となり、集計の方法を変えないことが重要です。各業務のリーダーに一括で記録させるなど、簡易的な集約方法でもルールを決めて継続できれば問題ありません。

数値目標は、現在の能力を評価して現実的で達成可能な値とする

設定したKPIには達成したい目標数値を設定します。冒頭で説明したSMARTの“A”(達成可能)の通り、期間内で達成可能な目標設定とすることが重要です。参考となる目標数値が無い場合は、数日間のKPIトライアルの実績値や工数分析による理論値を参考に目標を設定します。トライアルから目標を設定する場合では、倉庫作業者全体の中で、上位の生産性となった倉庫作業者の結果を目標とします。

【4.運用ルールの作成】

重要なポイント

KPI管理には経営職も参画し、“成果”に対してこだわりを持つ

KPIを継続的で成果に結びつく活動とするために、評価サイクルと運用スケジュールの2つの運用ルール設定も重要です。特に運用スケジュールにおいては、定期的な会議体を行い、経営陣にも参加を要請します。

①評価サイクル

KPIの管理サイクルは原則として週次管理とします。必要なデータは日次で取得し、KPI結果も日ごとに計算を行いますが、それらを集計し可視化するタイミングを週次とします。週次が望ましい理由として、日時管理と月次管理のデメリットを整理しました。

【日次管理のデメリット】

  • 作業ボリュームなど入出荷指示の傾向による影響が大きい
  • 集計業務を毎日実施しなければならず、事務作業への負荷が大きい

【月次管理のデメリット】

  • 改善実施から結果を得るまでに1か月待たなければならない
  • 月内で発生した異常値に対して、原因分析が記憶頼りとなる

②運用スケジュール

評価サイクルに従い、具体的なアクションと担当者を設定します。週次管理では次のようなスケジュールとなります。

運用スケジュール設定例

想像がし難いID2~ID5のアクションのポイントは以下のようになります。

ID2:    KPI結果作成と共有
作成に時間をかけないシンプルな資料を作成
各KPI項目に対し、前週のKPI結果と前々週や過去平均との比較を作成し、トピックを記載する場合も数行程度とする

ID3:    KPI結果の確認と課題抽出
荷主企業は週次MTG前に報告資料を確認し、過去の結果から変化の大きい項目や
前週の週次MTGで議題になったKPI項目の確認と課題想定を行う

ID4:    KPI結果に対する週次MTG
荷主企業と物流企業双方から担当者だけでなく管理職や経営職レベルも出席する
成果に繋げるという強い意志を双方で明確にする

ID5:    KPI結果と改善進捗の月次レビューMTG
月次MTGでは数値の進捗だけでなく、KPI管理を通じて発見した課題の共有や、
課題に対しての打ち手など、定性的な内容も盛り込み資料を作成し、共有する

まとめ

物流KPIは、物流のレベルを向上させるとても良い活動です。しかし、物流KPIを導入しても、形骸化してしまうことや、成果が出ていない事例もあります。その原因は、KPI導入の詰めが甘かったことが大多数です。今回のコラムが、物流KPI導入の成功につながると幸いです。

もし、現状のKPI活動に満足されていない、KPIの取り組みを開始したいがリソースが不足しているなどの、お困りごとがありましたら、是非弊社へお声がけ下さい。KPI設定から導入、成果の創出まで一貫してサポートさせて頂きます。

*本コラム内の用語

KPI(Key Performance Indicator)=重要な実績(業績)の管理指標
WMS(Warehouse management system)=倉庫管理システム
人時=1人が1時間働いた時間を1人時としたもの。2人が4時間働いた場合は、8人時。

SCM/3PL/物流のお悩みを解決したい方へ

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