SCM/物流

物流クライシスとは?現状と解決策を詳しく解説

人手不足やEC市場拡大による物流システムの複雑化、さらに2024年問題などさまざまな要因が絡み合い、物流業界には「物流クライシス」と呼ばれる状況が深刻化しています。

「物流クライシス」を乗り越えるために、物流業界の現状と物流クライシスの背景にある要因、さらに具体的な解決策について解説します。

SCM/3PL/物流のお悩みを解決したい方へ

プロレド・パートナーズでは、現状把握から施策の立案・実行まで一貫したサポートが可能となります。SCM改善について皆様からのご相談をお待ちしております。

 

物流クライシスとは

物流クライシスとは、従来の物流サービスの提供が困難となる危機的状況、およびその原因となる深刻な問題のことです。物流クライシスの背景には、輸送ドライバー不足、燃料費や人件費の高騰、EC拡大による市場ニーズの多様化、さらに2024年問題と近年物流システムを複雑化させるさまざまな要因あります。

株式会社 NX総合研究所の発表によると、ドライバー不足により2030年には19.5%(5.4億トン)、2024年問題の影響と合わせると34.1%(9.4億トン)、日本の物流による輸送能力が不足するとの試算が出されています。物流は日常生活や経済活動に必須の社会インフラのひとつです。物流クライシスによって、日本の国力が低下する危機的な状況となる可能性があると言えるでしょう。

物流業界の現状の課題

物流クライシスの要因はひとつではありません。複数の要素が複雑に絡み合うことで、物流クライシスが引き起こされます。物流クライシスの背景にある、物流業界が抱える現状の課題について解説します。

ドライバー不足

物流業界では、ドライバーやバックオフィスの人手不足という課題を抱えています。少子高齢化の加速に加えて、今まで輸送を担ってきた団塊世代のドライバーが一斉に退職しています。将来の輸送を担う若年層のドライバーやバックオフィススタッフの採用が強化されているものの、若年層の物流業界離れは加速し、求人に対して十分な人手を確保できない物流企業も多いのが現状です。全日本トラック協会によると貨物自動車運転者の有効求人倍率は2.01%です。求人に対する求職者は、半分程度であることが分かります。

さらに、現在現役で働いているドライバーやスタッフも高齢化が進んでいます。今後将来的な配送の担い手を確保するために、物流業界全体で効率的に若年層の確保と育成を行う仕組みづくりが急務と言えるでしょう。

労働条件の厳しさ

若年層の輸送業界離れが加速する背景にあるのが、トラックドライバーの労働条件の厳しさです。長時間労働、低賃金といった労働環境や非正規雇用で働くトラックドライバーも少なくありません。全日本トラック協会の発表によれば、トラックドライバーと全産業の平均年間労働時間を比較したところ、大型トラックドライバーは432時間(月36時間)、中小型トラックドライバーは384時間(月32時間)それぞれ長いことが分かりました。さらに年間所得は全産業平均より5~12%ほど低い傾向にあります。

少子高齢化が進む中で、若年層は厳しい労働条件のトラックドライバーをあえて選ぶ理由がありません。現在進行している人手不足を解消するためには、待遇改善をはじめ、若年層にもトラックドライバーは魅力のある職業であることをアピールする施策が必須と言えます。

環境負荷の増大

輸送や梱包のサービスレベルが向上すればするほど、CO2排出量や梱包資材の消費による、環境への負荷も増大するという課題があります。地球環境や社会の持続可能性を踏まえて、物流活動によって発生する環境課題への対策も求められています。たとえば社団法人 日本物流団体連合会では物流に関わる環境問題への対策のために「物流環境対策委員会」を立ち上げ、モーダルシフトやグリーン物流の推進などに取り組んでいます。人手不足や待遇改善といった対策とともに、環境対策が求められていることも、物流業界の大きな負担となっていると言えるでしょう。

物流クライシスの原因

物流クライシスは、物流業界を取り巻くさまざまな課題に近年の物流環境の変化が加わり、引き起こされています。おもな物流クライシスの原因について解説します。

消費者行動の変化

インターネットの普及、コロナ禍による非対面非接触での購買需要などの影響を受けて、消費者の購買行動は実店舗からECサイトの利用へ変化しました。国土交通省の発表によると、2022年の宅配便取扱数は約50億6万個(トラックによる宅配便は約49億2,500万個)と10年前と比較し約3割近く増加しています。EC市場が拡大したことを受けて、消費者向けの小口配送が増加、配送元や配送先も複雑化しました。EC市場の拡大は、コロナの収束とともに落ち着きを取り戻したものの、以前と比較し高い水準が継続されています。輸送業務の複雑化、ドライバーや輸送手段の不足、物流コストの増加といった問題がさらに深刻化し、物流クライシスを進める要因となっています。

技術導入の遅れ

複雑化する物流システムや人手不足への対応としては、ITやデジタルツールを取り入れた効率化や自動化が有効な手段です。日本全体でも、物流を含め各分野でデジタル技術を取り入れた大きな変革を起こすDXが推進されています。ところが日本は諸外国に比べて、さらに物流は他分野と比べてデジタル化や自動化が遅れているのが現状です。物流がコストという位置づけから脱却できず、投資判断が積極的になされないことが背景に挙げられます。

スイスのビジネススクール国際開発研究所(IMD)発表の「2023年世界デジタル競争力ランキング」では、調査対象の64か国中日本は32位でした。さらに帝国データバンク発表の「DX推進に関する企業の意識調査」では、「DX」を理解し取り組んでいる運輸・倉庫会社は、わずか14%という結果も出ています。デジタル化や自動化といった技術導入が物流業界全体で遅れていることから、変化や課題に対応できず物流クライシスを引き起こしているのが現状です。

規制と政策の問題

法規制や政府政策も物流業界へ大きな影響を与えています。特に代表的なのが2024年4月に施行された「トラックドライバーの時間外労働の罰則付き上限規制(年960時間)」(2024年問題)です。企業によっては2024年問題によって長距離輸送のルート変更や、ドライバー交代などの対策が求められています。今まで企業内で運用していた物流や輸送のシステムの見直しや、従来の時間での輸送の断念により、現在の物流や輸送の品質を維持できない企業も多く出る可能性が高くなります。

物流クライシスへの解決策

物流クライシスは、物流に携わる企業すべてが取り組むべき課題です。

物流の持続可能性を踏まえて、具体的な物流クライシスへの解決策について解説します。

技術革新の導入

物流クライシスへの対策方法として有効なのが、さまざまな先端技術の導入による物流DXです。たとえばAIやロボティクスを導入することで、仕分けや梱包、ピッキングといった作業の効率化や自動化が実現します。すでに一部輸送の自動化を実現している企業もあり、たとえば日本郵便では配送ロボットによるオフィスビル内配送を実施しています。

物流DXによって効率化や自動化が実現すれば、人手不足やコスト増加といった課題解決につなげられます。また、物流に関する作業の標準化も実現するため、人材育成のコストの削減や属人化の解消といった面でもメリットが得られるでしょう。

政策改革

生活・社会的なインフラである物流が正常に機能しなくなることは、日本の国力低下につながります。そこで日本政府としても、物流クライシスへのさまざまな対策や提案を行っています。たとえば有識者、関係団体及び関係省庁からなる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を設置し、労働環境改善のために厚生労働省の改善告知基準の見直し、物流の現状と課題に対する取りまとめなどを実施しています。ほかにも、「物流革新緊急パッケージ」をはじめとした、物流危機に対応する政策・施策がすでに打ち出されています。

産業構造の変革

物流クライシスの解決案として、物流拠点の機能強化やデータの標準化、企業をまたいだ連携などの産業構造の変革に注目が集まっています。たとえば、荷主企業と物流会社間での情報・データ共有、AI などの分析技術を使った予測分析を行うことで、物流全体の業務の最適化や効率化につながります。ほかにも物流DXを実現するために新興企業との協働やスタートアップの支援といった動きも出てきています。

物流単体の思考から、サプライチェーンへ領域を拡大し、企業同士や他業種同士でも連携を取ることが、物流クライシスを乗り切るカギになると言えるでしょう。

まとめ

物流クライシスは物流組織やサプライチェーン全体で取り組むべき課題です。各企業が待遇改善や雇用システムの見直し、業務効率化や自動化を目的とした物流DXを推進することで、物流業界がかかえるさまざまな課題解決につながります。自社の業務や構造の見直しを踏まえて、物流クライシスの解決へ舵を切りましょう。 自社の物流で発生している課題解決や物流DXに頓挫しているといったお悩みをお持ちの際には、ぜひプロレド・パートナーズにご相談ください。物流やESGに関するコンサルティングを提供しています。業務効率化やコストカットに向けた具体的な施策のご提案だけでなく、導入支援も行っております。お気軽にお問い合わせください。

SCM/3PL/物流のお悩みを解決したい方へ

プロレド・パートナーズでは、現状把握から施策の立案・実行まで一貫したサポートが可能となります。SCM改善について皆様からのご相談をお待ちしております。

 

関連記事

TOP