環境

自動車業界におけるカーボンニュートラルへの取り組みとその動向について

2021年10月から11月に14日間にわたってイギリスのグラスゴーで開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、「世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求する」と合意形成されました。これは、パリ協定(COP21)の「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という合意よりもさらに一歩踏み込んだ宣言になります。さらに、COP26では気候変動に大きく影響する産業セクターごとの交渉も行われました。その中でも自動車産業のGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)削減とCN(カーボンニュートラル)化は大きな課題として取り上げられ、「世界のすべての新車販売について、2035年までに主要市場で、2040年までに世界全体で、ZEV(Zero Emission Vehicle:ゼロエミッション車)とすることを目指す」という共同声明が発表されました。これは法的な拘束力があるものではありませんが、一部の主要自動車メーカーや国あるいは州などの自治体単位で署名されています。

今回は、今後のカーボンニュートラルを見据えた世界的な動向と、その中での国内自動車メーカーの取り組み、カーボンニュートラル達成に向けたステップについて解説していきます。カーボンニュートラルについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

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世界を取り巻くカーボンニュートラルの動向

資源エネルギー庁の資料によると2021年4月現在で、125カ国と1地域が2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しています。これらの国におけるCO2排出量の世界全体に対する割合は37.7%にのぼります。

日本では、長期目標として2050年にカーボンニュートラルを達成し、その過程としてCO2排出量を2030年に2013年と比較して46%削減することが2021年10月に閣議決定されています。

各国のカーボンニュートラル目標
国・地域
中期目標
長期目標
日本

2030年までに2013年比で46%削減

2050年排出実質ゼロ

EU

2030年までに1990年比で55%削減

2050年排出実質ゼロ

英国

2030年までに1990年比で68%削減

2050年に1990年比マイナス100%

米国

2030年までに2005年比で50~52%削減

2050年排出実質ゼロ

カナダ

2030年までに2005年比で40~45%削減

2050年排出実質ゼロ

ブラジル

2030年までに2005年比で43~50%削減

2050年排出実質ゼロ

中国

2030年までに排出量を削減に転じる

2060年排出実質ゼロ

ロシア

2050年までに2019年比で60%削減

2060年排出実質ゼロ

インド

2030年までに再エネ比率を50%に

2070年排出実質ゼロ

参考:資源エネルギー庁 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)

自動車業界におけるカーボンニュートラルの動向

自動車業界におけるカーボンニュートラルに向けての最新の動向を、用語の解説と具体的な事例を交えて説明します。

自動車によるCO2排出量の現状

2020年の国内における運輸部門からのCO2排出量は1億8,500万トンとなっています。これは全体排出量の約17.7%を占めています。

そのうち「自家用乗用車」「営業用貨物車」「自家用貨物車」の合計は1億5,600万トンとなり、運輸部門全体の85%を占め、CO2排出に対して非常に影響が強い事から対策が急がれる分野です。

参考:国土交通省 運輸部門における二酸化炭素排出量       

グリーン成長戦略

2021年6月に経済産業省は2050年のカーボンニュートラルの達成に向けて「グリーン成長戦略」という政策および方針を発表しました。

そのなかで、自動車分野は環境負荷の軽減に向けた技術イノベーションが期待される14分野のひとつに指定されています。

「グリーン成長戦略」で指定された産業分野は、今後各種の税制優遇や投資を呼び込むための規制緩和も進むことが予想されます。

参考:経済産業省 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました

カーボンニュートラルに向けて電動車100%の実現

2021年1月に菅首相が国会の施政方針演説にて「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」ことを表明しました。ここで言う電動車には、下記が該当します。

  • EV(電気自動車)
  • HV(ハイブリッド自動車)
  • PHV(プラグインハイブリッド自動車)
  • FCV(燃料電池自動車)

HV(ハイブリッド自動車)とPHV(プラグインハイブリッド自動車)を含みますので、温室効果ガスを排出しないZEV(ゼロエミッション車)とは定義が違う事に注意が必要です。

電動車普及率の更なる向上

2021年の日本の電動車(EV・HV・PHV・FCV)の販売比率は約41%と、初めて4割を超えました。それでも、2035年の電動車比率100%の目標達成には更なる電動車の普及が必要です。

出先での充電設備の拡充など、電動車の更なる普及のためのインフラ整備も求められています。

参考:一般社団法人 日本自動車会議所 自動車産業インフォメーション

ライフサイクルアセスメントとスコープ3までの脱炭素化

自動車業界ではLCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)の考え方が求められています。LCAは、走行時のCO2排出量だけでなく、製造、運搬、燃料製造、廃棄、リサイクルの過程で発生するCO2も含めて全体での排出量削減を目指す動きです。

完成車メーカーだけの努力ではLCAの達成は不可能で、生産のためのエネルギーの調達先や部品サプライヤーの協力が不可欠です。

さらに、大企業には自社が排出するGHGの削減(スコープ1)および自社で使用するエネルギーに係るGHGの削減(スコープ2)のみならず、サプライチェーン全体(スコープ3)での脱炭素化に取り組むことが求められています。

合成燃料

化石燃料であるガソリンに代わる「合成燃料」について、多くの完成車メーカーが開発に取り組んでいます。再生可能エネルギーを利用した水素を原料とする合成燃料や、生物(藻類等)由来の合成燃料が開発されています。技術的には既に実現可能ですが、ガソリンの価格に匹敵するコストを実現するには、まだ高いハードルがあります。

完成車メーカーのカーボンニュートラルに向けての動向

代表的な完成車メーカーのカーボンニュートラルに向けての取り組みをご紹介します。

トヨタの取り組み

トヨタは2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。その中でCO2排出量を2050年に実質ゼロとするために、下記の3つの取り組みを進めています。

  • ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ
  • 新車CO2ゼロチャレンジ
  • 工場CO2ゼロチャレンジ

それぞれ2030年までのマイルストーンと2050年の到達目標の2段階があり、自社の生産に掛かる排出量だけではなく、サプライチェーン全体からユーザーによる自動車の使用まで、トータルでの目標達成を推進しています。

参考:トヨタ自動車株式会社HP 6つのチャレンジ

ホンダの取り組み

ホンダは2050年までに全製品、企業活動でカーボンニュートラルを目指しています。その実現のために、2021年4月に「2040年までにEVとFCV(水素で走る燃料電池車)の販売比率を全世界で100%にする」と宣言しました。日本メーカーとしては初の「脱エンジン宣言」となります。

エネルギーの「マルチパスウェイ(複数の経路)」として下記の3つのサイクルを掲げ、カーボンニュートラルの達成と再生可能エネルギーの利用を促進する計画です。

  • 電気の循環(電気サイクル)…自動車やバイクはEV(電気自動車、電動バイク)
  • 水素の循環(水素サイクル)…直距離輸送トラックはFCV(水素で走る燃料電池車)
  • カーボンの循環(カーボンサイクル)…航空機や船舶にはCO₂を資源としたカーボンニュートラル燃料を活用し、CO₂を回収し再利用することでトータルゼロにする

参考:本田技研工業株式会社HP Honda「脱エンジン宣言」の覚悟

日産の取り組み

日産は、事業活動を含む自動車のライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを2050年までに実現するために、2030年代の早期より主要市場に投入する新型車をすべて電動車両にするとしています。そのための施策として下記を掲げています。

  • 全固体電池を含むバッテリー技術の革新
  • エネルギー効率をさらに向上させた新しいe-POWERの開発
  • 再生可能エネルギーを活用した、分散型発電に貢献するバッテリーエコシステムの開発
  • 電力網の脱炭素化に貢献する、エネルギーセクターとの連携強化
  • 車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションの推進
  • 生産におけるエネルギーと材料の効率向上

特に「日産リーフ」は現在まで52.4万台(2021年3月末時点)の販売実績があり、膨大なデータの蓄積から、国産EVの技術向上に大きく貢献しています。

また、中古のリーフから回収したバッテリーを家庭用/産業用蓄電池やポータブル電源として再生利用することにも取り組んでいます。

参考:日産自動車株式会社HP カーボンニュートラル

スズキの取り組み

可能な限り「小さく」「少なく」、重さを「軽く」、費やす時間や距離を「短く」、また「美しく」することを意味する「小少軽短美」の企業理念のもと、スズキは「環境ビジョン2050」と「マイルストーン2030」を発表し、製品から排出するCO2と事業活動から排出するCO2の排出量の削減目標を定めています。

参考:スズキ株式会社HP 「スズキ環境ビジョン2050」を発表

自動車部品サプライヤーのカーボンニュートラルに向けての動向

LCAの観点から、自動車産業全体のカーボンニュートラル実現に向けてサプライヤーの協力は不可欠です。

トヨタが関係協力会社を中心に、2021年の目標としてCO2排出量の前年比3%削減を要請している他、ホンダもサプライヤーにCO2排出量を2019年度比で年4%ずつ減らすよう求めています。

デンソーの取り組み    

国内最大のサプライヤーであるデンソーは、他社に先駆けて2035年にカーボンニュートラルを達成するとしています。

2025年…電力のカーボンニュートラル達成(ガスはクレジット活用)

2035年…モノづくりの完全なカーボンニュートラル達成

そのために下記の取り組みを徹底しています。

  •  徹底的に工場の省エネルギー活動をやりきり無駄を排除
  •  再生可能エネルギー(クレジット含む)を確保し、外部調達エネルギーのカーボンニュートラルを達成
  •  工場再編/革新とガスのカーボンニュートラル化を推進

参考:株式会社デンソーHP 環境戦略

アイシンの取り組み

電動車向けの電動ユニットを多く供給しているアイシンでは、工場生産時のCO2排出量を2030年に50%削減し、2050年には実質ゼロを目指しています。

新技術への興味深い取り組みとしては、CO2と水素から工場の燃料となるメタンを生成する「メタネーション」や、軽量で製造する時のCO2の排出が少ない次世代型太陽電池である「ペロブスカイト太陽電池」があります。

参考:株式会社アイシンHP カーボンニュートラルへの取り組み

カーボンニュートラルに向けて取り組むべきステップ

自動車業界がカーボンニュートラルの実現に向けて取り組むべき段階を、3つのステップに分けて説明します。

GHG排出量の算定

カーボンニュートラルの実現に向けて、まずは自社のGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量を算定することが重要です。

大企業の場合は、自社が排出・使用するスコープ1・スコープ2のみならず、サプライチェーン全体でのスコープ3まで把握することが求められています。

中長期GHG削減目標の設定と対外宣言

自社の現状把握ができたら、中長期のGHG削減目標を設定し、対外に向けて宣言します。

中長期目標の設定にあたっては、政府方針との整合が求められます。

ここまでの内容のおさらいとなりますが、重要なマイルストーンは下記の3つになります。

  • 2035年までに新車販売で電動車100%を実現
  • CO2排出量を2030年に2013年と比較して46%削減する
  • CO2排出量を2050年に実質ゼロとする(カーボンニュートラルの達成)

 GHG排出量削減のための具体的施策の検討と実行

中長期目標が設定できたら、取り組みやすさと投資インパクトにより優先順位を付け、具体的な施策を進めていきます。代表的な施策例を下記に示します。

(スコープ1・2)

  • エネルギー調達の見直し
  • 製造工程の見直し
  • 拠点戦略の見直し

(スコープ3)

  • 原材料調達の見直し
  • 製品輸送、従業員通勤方法の見直し
  • 製品性能の見直し

(共通)

  • カーボンプライシングの導入
  • 環境価値証書の購入によるカーボンオフセット
  • 省エネや再エネ促進のための新技術の開発

まとめ

今回は自動車業界のカーボンニュートラルに向けての動向と主要企業の取り組み事例、カーボンニュートラル達成に向けたステップについて解説しました。

政府目標の「2050年カーボンニュートラル達成」「2030年にCO2排出量を2013年と比較して46%削減」に向けて、自動車業界は自社だけでなくバリューチェーン全体で貢献することが今後ますます求められます。

「グリーン成長戦略」の後押しもありますので、企業の負担増ではなく新たなビジネスチャンスとして捉えることが重要です。

プロレド・パートナーズでは、企業の環境経営の取り組みについてもコンサルティングを承っております。脱炭素への取り組みや再生可能エネルギーの導入についての検討の際には、プロレド・パートナーズへお気軽にご相談ください。

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