SCM/物流

サプライチェーンマネジメント(SCM)の目指す効果と事例について説明

燃油費や2024年問題による人件費の高騰によって、物流コストの上昇が懸念されています。このような状況下で、より効率的な物流を目指す「サプライチェーンマネジメント」が注目されています。サプライチェーンとは、原材料の調達から製品が消費されるまでの過程のことです。その過程の見直しと改善をおこない、製品の供給を最適化するための手法をサプライチェーンマネジメントといいます。サプライチェーンに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。

本記事では、サプライチェーンマネジメントについて、目指す効果や課題について解説します。また、いくつかの取組事例も紹介いたします。

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サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?

サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)は、サプライチェーン全体を統括し、情報を連携しながら製造から消費までの過程の最適化を図る手法です。

サプライチェーンは、原材料の調達から製造、物流、販売、消費までの一連の流れを示します。商品やサービスを消費者の元へ円滑に届けるためには、サプライチェーンを定期的に見直す必要があります。

SCMという概念は1990年代からありますが、未だ多くの企業において、調達や製造、物流、営業や販売のそれぞれが個別に最適化を目指している状況です。しかしながら、2024年問題を目前にし、物流費が許容範囲を超える可能性や、顧客の要求する納期を満たせないといった懸念が増大しています。そのため、複数の部門間を跨いだプロセスの見直し、つまりサプライチェーンの見直しが始まっています。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の目指す効果

サプライチェーンの見直しを進めるためには、サプライチェーンマネジメント(SCM)の考え方や手法を適切に取り入れていくことが必要です。

インターネット上では、SCMシステムに関する記事が多く見つかりますし、SCM導入によるメリットやサプライチェーン全体の可視化についても詳細に説明されています。しかし、SCMは考え方であり、手法です。単にシステムを導入すれば実現できるものではありません。ビジネスのプロセスを情報と計画で連携することにより、効率的な実行を目指すものです。

ここからは、具体的にSCMの考え方の重要な3つの連携について説明いたします。

  • データの連携
  • 部門間・社外との連携
  • 経営戦略との連携

連携① データの連携(川下情報の活用)

販売実績など川下の情報を迅速に川上にフィードバックすることです。これにより、需要予測やPSI計画(Production:生産、Sales:販売、Inventory:在庫)の見直しが図れ、生産や在庫のムダを削減し、販売機会の損失と廃棄を最小化することを目指します。

販売実績の上流工程へのフィードバックと聞くと、やはりSCMシステム導入が必要だと思われるかもしれませんが、実際にはSCMシステムの導入が無くても取り組めることがあります。その理由は、リアルタイムの情報連携が目的なのではなく、連携された情報を使って頻度高く計画を見直せるかが重要だからです。

川下の情報として利用できるデータは、販売実績や廃棄実績です。これらのデータを川上にフィードバックしてサプライチェーンの見直しを行います。主な活用方法は在庫の適正化です。廃棄データを活用して、需要予測や調達・生産計画の精度について再検討を行います。廃棄が多い企業の特徴として、需要予測と計画が切り離されていないことがあります。

過剰な在庫が課題である一方、過少在庫による販売機会の損失が課題となることもあります。通常、廃棄データは管理されていますが、機会損失については管理が十分でない場合が多くあります。機会損失は発生時に取引が発生しないため、データとして残されていないことが原因となります。そのため、多くの企業で機会損失が社内で認識されていながらも、定量的な把握ができておらず、明確な対策ができていないケースもあります。発生状況に関する担当者へのヒアリングを通して仮説を設定して、販売実績データから定量的な分析を行う必要があります。

このように川下情報を分析し、サプライチェーンの上流にある計画プロセスを見直すことにより、在庫が適正化され、結果として販売機会の損失や廃棄を減少させることができます。

連携② 部門間・社外との連携

部門間や社外との連携を強化し、改善を進めることです。先に述べたように、多くの企業では部門単位での改善が行われています。しかし、部門単位の最適化とサプライチェーン全体の最適化は必ずしも一致しないことがあります。たとえば、営業部門は顧客のリクエストに重点を置き、小ロット多頻度な納品を条件として契約を行う一方、物流部門は大ロットでの輸送により配送コストを最小化することを目指します。どちらが優れているか、悪いかということではなく、各部門が自身の最適化を達成しているということです。

営業部門と物流部門が単に連携するだけでは課題を解決することはできません。両部門はそれまでのやり方を変える必要がありますし、共通の目標を持ち、同じ方向を見て進む必要があります。そのためには、サプライチェーンマネジメントを通じて、企業の目標にどのように貢献していくのかを明確にすることが重要です。サプライチェーンマネジメントは、異なる部門や関係者が協力してサプライチェーン全体を最適化するためのフレームワークです。それによって、営業部門と物流部門は共通の目標や方針を確立し、連携して改善活動を進めることが可能になります。このようなアプローチによって、サプライチェーンの効率性や顧客満足度の向上を実現することができます。

営業部門と物流部門が共同で行う改善の結果、以下のような効果が期待できます。

・商品の売切りによる倉庫の効率化

倉庫内で少量となった商品(売れ残り)を物流部門が営業部門へ伝え、営業部門が割引などの売切り施策を実施することで、倉庫の保管効率や作業効率が改善します。売れ残り商品に早めに対応することで、倉庫の在庫量を適正化し、スペースの有効活用など物流コストの削減に繋がります。

・顧客ニーズの充足による売上の最大化

顧客との対話や市場調査を通じて、リクエストを正しく把握し、その背後にある本当のニーズを正しく把握することが重要です。例えば、リードタイムの短縮を例に挙げると、漠然と全ての顧客のリードタイムを短縮することを目的とするのではなく、本当に顧客が必要としているニーズが何なのかを検討します。これにより、顧客の要求に応えながらも、効果的かつ効率的なソリューションを提供することが可能となります。

連携③ 経営戦略との連携

先述の通り、サプライチェーン・マネジメントでは共通の目標に向けて情報の透明性と連携を高め、サプライチェーン全体の効率性、品質、コスト削減、リードタイムの短縮などの改善を実現していきます。ここで重要となるのが、自社の経営戦略との連携です。つまり、経営戦略に基づいて改善すべき領域を特定し、優先順位をつけて取り組んでいきます。

経営戦略は企業の長期的な目標や方向性を示すため、SCMの改善活動もそれに合わせて行います。SCMの改善対象となる領域は多岐にわたりますが、改善の優先順位をつけることで、限られたリソースを効果的に活用することができます。

優先順位は経営戦略との整合性やビジネス上のニーズに基づいて決定します。たとえば、競争上の優位性を確保するためにリードタイムの短縮が重要であれば、それに優先度を置くかもしれません。また、顧客満足度の向上やサプライヤーとのパートナーシップ強化が目標であれば、品質向上や協力関係の強化に重点を置く必要があります。

優先順位をつけて改善に取り組むことにより、早期の成果が見込めます。重要な領域に集中的に取り組むことで、効果的な改善が実現され、結果的に経営戦略の達成に寄与することができます。ただし、改善は継続的なプロセスであり、優先順位を定めた後も定期的な評価と調整が必要です。

また、経営戦略の違いにより、求めるサプライチェーンの姿も異なります。分かり易い事例をあげると、アパレルのブランドであるユニクロとZARA比較は有名です。

ユニクロは高品質でベーシックなアイテムを手頃な価格で提供することを重視しており、トレンドに左右されずに需要を見込んで大量生産し、在庫を持つことが特徴です。そのため、生産ロットは大きく、海上輸送を利用したコスト効率の高いグローバルな供給体制を構築しています。

一方、ZARAはトレンドを追い、迅速な商品化を実現することに重点を置いています。トレンドの変動が激しいため、多品種で小ロット生産し、在庫を抑えることで柔軟に対応します。また、航空便を利用した迅速な輸送によって、需要の変動に素早く対応できます。

これらのビジネスの違いにより、ユニクロとZARAのサプライチェーンの特徴や目指すべき姿も異なってきます。ユニクロでは効率的な供給と在庫管理を重視し、顧客に安定した品質と手頃な価格を提供することを目指します。一方、ZARAではトレンドに即した迅速な商品提供を重視し、需要の変動に敏感に対応することを目指します。

企業の経営戦略に応じて、サプライチェーン戦略も適切に設計される必要があります。それにより、効率性、柔軟性、顧客満足度などの目標が達成され、企業の競争力が強化されます。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の成功事例の紹介

ここからは、日本の大手企業が導入したSCMの成功事例を紹介します。

基本的な手法を理解いただくため、ぜひ参考にしてください。

  • シャープ株式会社
  • ハウス食品株式会社

事例① シャープ株式会社 ~家電製品における計画サイクルの短縮~

シャープでは、電子機器市場における製品ライフサイクルの短期化に合わせて、ビジネスプロセスを変革することで、対応力の向上と在庫コストの削減を実現しました。

従来の生産計画サイクルでは、3ヶ月前に1ヶ月単位で定期発注をかける方式が採用されており、部品調達と製品需要の両面において対応力が低く、在庫水準の高止まりが問題となっていました。そこで、需要予測や生産計画のサイクルを月次から週次に短縮することで、迅速かつ柔軟に市場の変化に対応できる体制を構築しました。

具体的には、営業担当から切り離された専任の需要予測チームを設け、システムを導入して予測精度を向上させました。また、製品のライフサイクル・パターンに応じて製品カテゴリごとに需要予測を行い、より精緻な予測を実現しました。

さらに、需要予測と売上フォーキャストのギャップを可視化し、ギャップを埋めるための施策に重点を置くプロセスを構築しました。これにより、需要と供給のバランスを改善し、在庫の適正化と在庫コストの削減を実現しました。

これらの取り組みによって、シャープは製品ライフサイクルの短期化に対応し、より効率的かつ迅速なサプライチェーンを構築することができました。また、在庫コストの削減により企業の競争力を向上させることもできました。

事例② ハウス食品グループ ~AIの活用による需要予測と部門間連携~

食品業界において、フードロスをいかに最小化するかは重要な課題です。この課題に対して、需要予測の高度化で、削減に向けた取り組みを加速させました。

これまでは、需要予測に関して人への依存度が高く、営業、商品企画・開発、SCM部で考え方が異なり、標準的な計画となっていませんでした。そこへ、AIを活用した需要予測を導入し、多種多様なデータから精度の高い規則性に基づいた適切な予測ができるようになりました。

さらに、商品特性ごとにグルーピングを行い、サプライチェーンへの影響度を加味して、需要予測の活用に優先順位をつけています。さらに、SCM部がグループや部門を連携する機能となり、計画の見直しから実行までサポートを行っています。

ハウス食品グループでは、これらの取り組みにより、欠品件数50%、廃棄ロス10%の削減を目指しています。

まとめ

サプライチェーンマネジメントは、サプライチェーン全体を統括し、情報を連携しながらプロセスの最適化を図る経営手法です。

まずは、自社の経営戦略に即したサプライチェーン戦略を立案することが大切です。その上で、データや情報、計画を共有化し、連携して取り組みを行っていく必要があります。もし、自社の取り組みに不足を感じているようでしたら、現状把握から実施されることをお勧めします。自社の課題が何かを定量的に評価してみて下さい。

プロレド・パートナーズでは、SCMに関するご相談も承っております。現状の把握から問題解決手法の提案から実行まで、一貫したサポートが可能です。 SCMについて課題や疑問点がある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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