近年、日本のみならず世界各国で環境問題が注目されており、従来の発電方法から太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーを活用した発電方法への転換が進められています。自然エネルギーを活用した発電方法へとシフトするために、具体的な施策としてFIT制度がはじまりました。FIT制度(固定価格買取制度)という言葉を聞いたことがあっても、どのような制度か詳しくはわからない方もいるでしょう。
そこで、本記事では、FIT制度とはどのような制度かを解説します。さらに、FIT制度を活用するメリットや問題点も併せて見ていきましょう。
FIT制度・固定価格買取制度とは
FIT制度の正式名称は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」であり、経済産業省によると、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度と説明されています。
FIT制度によって、再生可能エネルギーの発電設備の普及が進んできました。再生可能エネルギーとは主に以下の5つを指します。
- 太陽光発電
- 風力発電
- 水力発電
- 地熱発電
- バイオマス発電
それぞれの発電方法の違いについては後述し、まずはFIT制度が成立された背景を見ていきましょう。
参考:経済産業省 FIT・FIP制度
FIT制度創設の背景
FIT制度は、再生可能エネルギーの普及を目的として制定されました。FIT法には「再生可能エネルギー源を利用することが、内外の経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な供給の確保及びエネルギーの供給に係る環境への負荷の低減を図る上で重要となっている」と明文化されています。
参考:再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法
FIT制度が確立された背景には、地球環境への配慮に加え、諸外国と比べるとエネルギー自給率が低いことが挙げられ、2012年に開始されました。
FIT制度の仕組み
FIT制度(固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーによって発電された電気を電力会社が一定期間、一定価格で買い取る制度です。買い取りに要した費用は、電気の使用者から再生可能エネルギー発電促進賦課金という名目でまかなわれています。
再生可能エネルギー発電促進賦課金とは
再生可能エネルギー発電促進賦課金は、電気の使用者によって、毎月の電気料金に加えて電気使用量に応じて支払われています。
では、どのくらいの金額が支払われているのかご存じでしょうか。再生可能エネルギー発電促進賦課金は全国一律に単価が設定されており、毎年5月に単価が更新されます。2023年5月分から2024年4月分の賦課金単価は1kWhあたり1.40円となっています。一か月に300kWh使用する世帯を例にすると、300kWh×1.40円=420円が再生可能エネルギー発電促進賦課金として支払うこととなります。電力使用量が多いほど、負担額が増えていきます。
再生可能エネルギーで発電された電気は、日々使う電気の一部として供給されていることを理解しておくことが大切です。
参考:経済産業省 再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2022年度以降の買取価格・賦課金単価等を決定します
FIT制度の対象となるエネルギーと売電価格
FIT制度の対象となるエネルギーは「太陽光発電」「風力発電」「水力発電」「地熱発電」「バイオマス発電」の5つあります。
ここでは、それぞれの発電方法の仕組みと、売電価格について詳しく見ていきましょう。
太陽光発電
太陽光発電は、太陽の光エネルギーによって発電するシステムであり、幅広く普及している再生可能エネルギーのひとつです。昨今は、一般家庭でも採用されており、街中でも見かけたことがある方も多いのではないでしょうか
太陽光発電は、ほかの発電システムよりもメンテナンスが簡易的であり、災害時の非常用電源としても利用できるのが特徴です。ただ、太陽の光で発電することから、天候の影響を受けやすいほか、日照時間によっても発電量が異なります。積雪地域では、太陽光発電パネルに雪が積もると、発電効率が落ち、期待通りの発電量を確保しづらいことも特徴です。
太陽光発電の売電単価は、FIT制度がはじまった2012年度では1kWhあたり、住宅用が42円、産業用が40円でした。しかし、太陽光発電システムの設備費用自体の低下を受け、売電設定単価も下がっています。2023年度の売電単価は、住宅用が16円、産業用が9.5~10円となっています。
なお、太陽光発電の詳しい仕組みはこちら、
太陽光発電のメリットやデメリットを知りたい方はこちらを参考にしてください。
風力発電
風力発電は、風の力で大きな風車を回し、プロペラが回るときの回転運動を電気に変えて発電する仕組みです。昨今は、「陸上風力発電」「着床式洋上風力発電」「浮体式洋上風力発電」の3種類に分類されています。
風力発電は設置に広大な敷地が必要となるほか、風況の良さが条件になりますが、複数の風力発電システムを一度に導入することでコストを抑えられる、風の力を利用するので、昼夜問わず発電ができるといった特徴があります。
なお、風力発電の売電単価は、2012年度は20kW以上で22円、20kW未満で55円でした。しかし、2023年度の売電単価を見てみると発電方法により単価が変わり、陸上風力発電が15円、着床式洋上風力発電が入札制、そして浮体式洋上風力発電が36円となっています。
水力発電
水力発電は、河川やダムなどの高低差を利用し、水を落下させて、水車を回転させることで発電するシステムです。もともと、大きな川や高低差のあるところでしか活用できませんでしたが、昨今は農業用水路や上水道などを活用した中小規模の水力発電が広まりつつあります。
水力発電は、長期間安定して稼働させられるといったメリットがあるほか、中小規模の水力発電は、分散型電源としてのポテンシャルが高く、未開発地点が多く残っている為、これから開拓されることを期待できるでしょう。
ただし、農業用水路などの中小規模用の水力発電は、導入コストが依然として高い傾向にあります。そのほか、設置するに際し、運用シミュレーションをおこなうなどの事前調査が必須であり、水利権や関係者との調整が必要です。
なお、水力発電の2012年度の売電単価は、1,000kW~30,000kW未満が24円、200kW~1,000kWが29円、200kW未満が34円でした。2023年度の売電単価を見てみると、5,000kW~30,000kW未満が16円、1,000kW~5,000kW未満が27円、200kW~1,000kWが29円、200kW未満が34円となっており、ほかの再生可能エネルギーと比べると、大きな変化がないことがわかります。
ただし、水量発電の中でも「既設導水路活用型*」電源の場合は売電単価が異なります。既設導水路活用型の水力発電の場合、2023年度の売電単価は,5,000kW~30,000kW未満が9円、1,000kW~5,000kW未満が15円、200kW~1,000kWが21円、200kW未満が25円となっており、通常の水力発電の売電単価よりも低く設定されています。
*既に設置している導水路を活用して、電気設備と水圧鉄管を更新するもの。
地熱発電
地熱発電は、蒸気や熱水を使って地熱エネルギーを取り出し、タービンを回すことで発電できます。地熱エネルギーを取り出す際に使用する蒸気は、水に戻され、還元井※で地中深くに戻される仕組みとなっています。
日本は、火山国であることから、地熱発電をおこなえるところがたくさんあり、世界第3位の豊富な資源を誇ります。また、地熱発電は出力が安定しているので、電気の安定供給がしやすいほか、24時間稼働できるのが特徴です。ただし、開発期間が約10年かかることに加え、高額な開発費が必要になることや、開発地域の特性上、温泉・公園施設などと重なる為、地元との調整が必要となります。
地熱発電の2012年度の地熱発電の売電単価を見ると、15,000kW以上で26円、15,000kW未満で40円となっており、2023年度も同様に15,000kW以上で26円、15,000kW未満で40円であることから、売電単価に変動がないことがわかります。
※還元井…生産井から排出される地熱水には有害物質が含まれること、また資源枯渇による 衰退を防ぐため、地中に還元するための坑井
参考:環境省 温泉資源の保護に関する基本的な考え方(地熱発電関係)に盛り込むべき項目(素案)
バイオマス発電
バイオマス発電は、動植物などの生物資源をエネルギー源として発電するシステムです。農作物の残渣や、食品廃棄物などを活用できるので、廃棄物の削減につながります。また、天候や気候に左右されにくいので、比較的安定して発電ができます。ただし、生物資源がなければ発電できないので、原料を確保できるかが重要な課題であるほか、資源の運搬・管理コストが必要となります。
バイオマス発電は、原料によって売電単価が異なります。
【2012年度】
メタン発酵ガス (バイオマス由来) | 間伐材等由来の木質バイオマス | 一般木質バイオマス方策物残渣 | 建設資材廃棄物 | 一般廃棄物 その他のバイオマス | |
売電単価 | 39円 | 32円 | 24円 | 13円 | 17円 |
【2023年度】
メタン発酵ガス(バイオマス由来) | 間伐材等由来の木質バイオマス | 一般木質バイオマス・農作物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料 | 農産物の収穫に伴って生じるバイオマス液体燃料 | 建設資材廃棄物 | 廃棄物・その他のバイオマス | |||
2,000kW以上 | 2,000kW未満 | 10,000kW以上 | 10,000kW未満 | |||||
売電単価 | 35円 | 32円 | 40円 | 入札制度により決定 | 24円 | 入札制度により決定 | 13円 | 17円 |
参考:経済産業省 FIT・FIP制度 参考:経済産業省 資源エネルギー庁 国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案 参考:経済産業省 資源エネルギー庁 今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~ 参考:経済産業省 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 参考:経済産業省 発電コスト検証に関するこれまでの議論について
FIT制度の課題
FIT制度の大きな課題としては、国民負担する再生可能エネルギー促進賦課金です。FIT制度は、電気使用者である国民が再生可能エネルギー発電促進賦課金として、電力会社から電気を購入するときの費用の一部を負担して成り立っています。
再生可能エネルギー発電促進賦課金は、買取費用などを基に決定されます。買取費用は、FIT制度で定められる売電価格と売電量によるものです。太陽光では売電価格が下がっていますが、それ以外の再エネ発電種別では売電価格が下がっていないことから、発電コスト自体は未だに高い状態が続いており、国民負担も減少しづらいという課題が残っています。
まとめ
2012年にはじまったFIT制度により、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー発電システムが国内に普及していきました。地球温暖化対策として、日本は2030年度に2013年度比46%削減、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことから、再生可能エネルギーの活用は今後より進んでいくでしょう。
再エネ普及を促進してきたFIT制度は、電気使用者である国民の負担によって成立していることも事実であり、国民負担を少しでも抑えながら、再エネの普及を進められるかが大きな課題となるでしょう。
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