「2030年にCO2 46%減(2013年比)、2050年カーボンニュートラル」という政府目標の達成のために、二酸化炭素(CO2)排出量削減への具体的な取組みが民間企業にも求められるようになっています。CO2削減を進める方法としては、省エネルギー設備や再エネ発電設備導入などの、いわゆる自助努力の方法だけでなく、他の企業や団体が創出したCO2排出量削減量を、金銭的な取引によって自社のCO2削減量とする「カーボン・オフセット」の方法があります。Scope2(電気)の脱炭素の場合、日本「グリーン電力証書」「非化石証書」「J-クレジット」の3つの環境証書があります。
この記事では、この3種類の環境証書の概要とそれぞれの違いについて簡単に解説します。企業がこの3つを活用してカーボン・オフセットを導入するメリットについても解説しますので、環境経営への取組みを進めている企業の経営者の方、ご担当者の方はぜひ参考にしてみてください。
環境価値とは

環境証書とは、「太陽光や風力などを活用した発電時に、二酸化炭素を排出しないという環境価値を証書化したもの」です。従って、環境証書を調達した分(kWh分)は、CO2排出量をゼロにオフセットできます。
Jクレジットのみ、Scope1(燃料)のオフセットに使用可能な証書も発行しています。
3つの証書の違い

先に挙げた3つの環境証書は、それぞれ由来や取引方法が違います。カーボン・オフセットを検討する場合は、それぞれの特徴を知り自社に合ったものを選定するようにしましょう。
証書名 | 環境価値の由来 | 環境証書としての取引方法 | 転売 |
グリーン電力証書 | 自然エネルギーを利用した発電所 | 発行する企業や自治体などとの相対取引 | 不可 |
非化石証書 | 化石燃料を使用しない発電所(原子力含む) | 日本卸電力取引所(JEPX)にて入札形式による市場取引 | 不可 |
J-クレジット | 企業や自治体などの活動によるCO2の削減量や吸収量 | 仲介事業者を通じて購入、クレジット保有者との相対取引、入札のいずれか | 可能 |
以下に、それぞれの証書について解説していきます。
グリーン電力証書とは
グリーン電力証書は、自然エネルギーによって発電された電気の環境価値を、証書発行事業者が第三者認証機関(一般財団法人日本品質保証機構)の認証を得てグリーン電力証書という形で取引する環境証書です。
企業はグリーン電力証書を購入することで、カーボン・オフセットが出来るとともに、国内の自然エネルギー普及や、温暖化の抑制に貢献できます。
グリーン電力証書に関しては過去の記事でより詳しく解説していますので、併せてそちらもご覧ください。
非化石証書とは
非化石証書とは、非化石電源で発電された電気から、環境価値を切り離して証書化したものです。経済産業省資源エネルギー庁が運営しています。原子力発電も含むのが、グリーン電力証書、Jクレジットとの大きな違いです。
非化石証書は、非化石価値取引市場で年4回の入札によって取引されます。2021年11月の制度見直しによって、一部の証書(FIT非化石証書)であれば、民間企業でも直接購入することができるようになっています。
非化石証書に関しては過去の記事でより詳しく解説していますので、併せてそちらもご覧ください。
Jクレジットとは
J-クレジット制度とは、企業や自治体などの活動によるCO2の削減量や吸収量を証券化して市場取引ができるようにする制度です。制度は国が運営し、認証を実施しています。J-クレジットの対象としては、主に下記の3つが挙げられます。
- 省エネルギー設備の導入によるCO2の排出量削減
- 再生可能エネルギーの導入によるCO2の排出量削減
- 適切な森林管理によるCO2の吸収
J-クレジット制度により取引されたクレジットは、仲介事業者を通じての購入、クレジット保有者との相対取引、定期的に実施される入札などさまざまな方法で取引が可能です。
J-クレジットに関しては過去の記事でより詳しく解説していますので、併せてそちらもご覧ください。
環境証書を利用するメリット・デメリット

環境証書を利用するメリットには何があるでしょうか?デメリットも含めて解説します。
環境証書を利用するメリット
■大きな設備投資を伴わずにCO2排出量を削減できる
省エネルギー性能の高い設備導入や更新、自家消費型の再生可能エネルギー発電設備の導入には、多額の初期投資が発生することがあり、投資対効果が見合わない場合は導入が進まない可能性があります。
「グリーン電力証書」「非化石証書」「J-クレジット」の3つの環境証書を調達し、カーボン・オフセットをすることにより、企業は自社の設定した目標に必要な分だけ、必要な時期に導入することで、企業は最低限の投資でCO2排出量の削減が出来ます。
■国際的な環境経営認証制度に適用できる
企業が環境証書を購入してカーボン・オフセットをしたとしても、ただの環境経営の対外的アピールに留まっていては十分な効果は発揮できません。
ここに挙げた3つの証書はCDPやSBT、RE100などの国際的なイニシアチブ・評価制度にも対応しています。
これらの制度を活用して、ESG投資の対象先を検討する機関投資家へ自社の環境経営の取り組みを積極的に開示するようにしましょう。
参照:経済産業省HP 気候変動をめぐる国際的なイニシアティブへの対応
環境証書を利用するデメリット
環境証書の取引は「環境を金で買っている」という認識を抱かれやすいことは事実です。
しかし、企業の省エネや、再エネ発電所の自家消費などの、自助努力で削減出来る部分は決して大きくなく、環境証書の利用を必要とする企業の方が多い状況です。加えて、環境証書を利用することは、他社が創出する環境価値創出の取り組みを、間接的に援助することにもつながります。
そのため、環境証書は、引き続き脱炭素化において重要な役割を果たすでしょう。
まとめ
ここまで、「グリーン電力証書」「非化石証書」「J-クレジット」の3種類の環境証書の概要とそれぞれの特徴について解説してきました。
環境経営への取り組みなくして企業活動は成り立たない時代になりつつあります。自社の事業活動で排出するCO2排出量を把握し、削減目標を立てることから取り組みをスタートしている企業が増えています。投資対効果の高い省エネ、再エネ発電設備の導入だけでは削減量に限界が出てくることが多く、CO2削減目標達成のためには、投資対効果の低い施策を行うよりも、環境証書の活用も視野に入れた多面的な取り組みも検討すべきでしょう。
現在、環境に関するご相談につきましてはプロレド・パートナーズのグループ会社であるナレッジリーンにて対応させていただいております。ナレッジリーンでは、脱炭素経営やカーボンニュートラル戦略の策定、環境分野の調査業務、計画の立案等、企業の環境経営全般に対する専門的なコンサルティング支援を行っています。環境に関する取り組みでお悩みの際は、ナレッジリーンまでお気軽にご相談ください。