コストマネジメント

店舗の賃料増額請求を受けたら?交渉で減額・据え置きに導く実務ポイントを解説

複数の店舗を展開する企業では、貸主(オーナー)から「近隣相場が上がったため賃料を増額したい」という通知を受けるケースが多くなっています。特に都心部や商業集積エリアでは、周辺の再開発や地価上昇を理由に増額請求が行われることがあります。賃料は店舗運営における固定費の大きな部分を占めるため、増額請求は企業の利益に直結する重大な問題です。

しかし、貸主からの増額請求をそのまま受け入れる必要はありません。借地借家法には賃借人を保護する規定があり、適切な手順を踏めば、増額を据え置いたり、増額幅を圧縮したり、場合によっては減額に導いたりすることも可能です。本コラムでは、店舗の賃料増額請求の法的根拠を押さえたうえで、交渉で減額・据え置きに導くための実務ポイントを解説します。

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データで見る:店舗の賃料に増額圧力が高まる背景

店舗の賃料増額請求が増えている背景には、地価と商業地の賃料が上昇基調にあることがあります。国土交通省の「令和7年地価公示」(価格時点2025年1月1日)によると、全国の商業地の地価は前年比プラス3.9%と4年連続で上昇し、上昇幅も拡大しました。とくに東京圏の商業地はプラス8.2%(前年はプラス5.6%)と、より高い伸びを示しています。

この背景には、インバウンド需要の回復、低金利や円安、店舗・オフィスの空室率の低下といった要因があります。物件の収益性が高まることで、貸主が賃料の引き上げを求めやすい環境が続いているのです。都心部や商業集積エリア、再開発が進む地域では、こうした動きがとくに強く表れます。

もっとも、地価や周辺相場の上昇は、あくまで増額請求の「きっかけ」にすぎません。実際に増額が認められるかどうかは、次に述べる借地借家法の要件に照らして個別に判断されます。地価が上がっているからといって、自社の店舗の賃料増額が当然に正当化されるわけではない、という点を押さえておくことが交渉の出発点になります。

賃料増額請求の法的根拠(借地借家法第32条)

賃料の増減請求については、借地借家法第32条に定めがあります。同条では、土地・建物にかかる租税などの負担の増減、地価や物価の変動、近隣の同種建物の賃料水準との比較などにより、賃料が周辺相場や経済情勢に見合わない状態(法律上は「不相当」と表現されます)になった場合に、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できるとされています。この権利は貸主・借主のどちらからでも行使でき、貸主からの値上げ通知もこの増額請求権に基づくものです。

ここで重要なのは、増額請求は貸主の「一方的な通知」だけで自動的に効力が確定するものではないという点です。借主が増額に合意しない場合、最終的には調停・訴訟によって適正な賃料水準が判断されます。つまり、増額通知を受け取った時点で、企業側には交渉の余地が十分にあるということです。

賃料の増額が認められる条件

前述のように賃料の増額は、貸主が「上げたい」と思えば認められるものではありません。借地借家法に基づき、次のような事情が判断材料になります。

増額の判断材料となる主な事情具体的な例
公租公課などの負担の増減土地・建物にかかる固定資産税や都市計画税が上がった/下がった場合
土地・建物の価格や経済事情の変動周辺の地価が上昇した、物価や金利が大きく変動した場合など
近傍同種の建物の賃料との比較周辺にある似た条件の物件と比べて、現在の賃料が低い(または高い)場合

また、契約に「一定期間は賃料を増額しない」という特約(不増額特約)がある場合、その期間中は原則として増額は認められず、据え置きを主張する強い根拠になります。一方で、「賃料を減額しない」旨の特約があっても、借主からの減額請求は妨げられないとされています。まずは自社の契約書に、賃料改定に関するどのような取り決めがあるかを確認すること必要です。

店舗の賃料増額請求は拒否できる?

結論として、借主は賃料増額請求を拒否することができます。貸主から値上げを通知されても、借主がそれに無条件で従う義務はなく、現在の賃料を支払い続けることも認められています。貸主は、借主が現行賃料しか支払っていないことを理由に、契約を解除することはできません。

ただし、注意すべき点があります。最終的に増額が正当だと認められた場合には、賃料は増額請求を受けた時点にさかのぼって増額され、借主は現行賃料との差額に加えて、年1割(年10%)の利息を支払う義務を負います。したがって、根拠が乏しいと感じても「ただ拒否する」だけでは不十分で、増額の妥当性を客観的に検証したうえで、後の負担も見据えて交渉に臨むことが大切です。

交渉で減額・据え置きに導く実務ステップ

賃料増額請求を受けたときは、次の手順で準備を整えたうえで交渉に臨むことが、据え置きや減額を引き出すことに繋がります。

① 通知内容と契約条件を確認する

まず、増額請求の通知に記載された内容(増額の理由、増額幅、適用開始時期)と、現行の賃貸借契約書の条項(賃料改定条項、契約期間、更新条項など)を突き合わせます。「〇年ごとに協議のうえ改定する」といった規定があれば、その手続きに沿っているかも確認します。前述の不増額特約があれば、据え置きを主張する有力な根拠になります。

② 周辺相場の客観データを収集する

増額請求の妥当性を判断するうえで最も重要なのが、近隣の同種店舗・同エリアの賃料相場データです。不動産仲介会社の公開情報や、不動産鑑定士による簡易査定を活用し、「本当に周辺相場が上昇しているのか」「上昇しているとしてどの程度か」を客観的に把握します。複数店舗を展開している企業であれば、自社が保有する他店舗の契約データや同業他社の出店動向も、有力な交渉材料になります。ここで相場より現在の賃料がむしろ高いと分かれば、据え置きにとどまらず、こちらから減額を求める材料にもなります。

③ 支払い方法を設計する

合意に至るまでの間の賃料の支払い方をあらかじめ決めておきます。原則として従前の賃料を支払い続けることで、据え置きの状態を保ちながら交渉を進められます。貸主が家賃の受け取りを拒む場合には、法務局に家賃を預ける「供託」という方法もあり、これにより支払いを続けた事実を残せます。最終的に増額が認められた場合の差額と年1割の利息も見込んで、資金面の備えをしておくと安心です。

④ 貸主との交渉に臨む

客観データが揃った段階で、貸主との協議に入ります。ここでのポイントは、感情論ではなくデータに基づいて交渉することです。次のような着地点を複数用意しておくと、交渉がまとまりやすくなります。

  • 増額幅の圧縮
    貸主が提示した額の一部への調整を求める
  • 増額時期の後ろ倒し
    次回更新時までは現行賃料で据え置く
  • 賃料以外の条件での調整
    フリーレントや原状回復費用の負担など、賃料以外の条件と組み合わせる
  • 減額の相談
    相場より現在の賃料が高い場合は、逆に減額を相談する

⑤ 合意できない場合の選択肢

交渉が平行線をたどる場合は、法的手続きも視野に入ります。賃料をめぐる争いは、訴訟の前にまず裁判所へ調停を申し立てる「調停前置」(調停を経てからでないと訴訟できない仕組み)が原則ですが、調停・訴訟は時間とコストがかかるため、多くの企業では協議による着地を優先します。増額を一部受け入れつつ、契約期間の延長や更新料の減免など他の条件とのバーターで全体最適を図る交渉スタイルも有効です。手続きに進む場合は、弁護士など外部の専門家の力を借りるのが一般的です。

やってはいけない対応・注意点

対応を誤ると、かえって不利な立場に立たされることがあります。次の点に注意しましょう。

  • 感情的に即拒否したり、放置したりしない
    根拠を確認しないまま強く拒否したり通知を無視したりすると、後の交渉や調停で不利になりかねません。また、やり取りを書面で残すことが重要です。
  • 安易に即受諾しない
    その場しのぎで受け入れると、増えた固定費が恒久的に経営を圧迫します。妥当性を検証してから判断しましょう。
  • 店舗ごとにバラバラで対応しない
    多店舗展開では、店舗ごとの個別対応でノウハウが蓄積されず、対応が後手に回りがちです。契約条件は横断的に管理・比較することが望ましいといえます。

自社対応の限界と外部専門家の活用

賃料増額請求への対応は、法律知識・不動産市場データ・交渉ノウハウの3つがそろって初めて実効性を持ちます。特に多店舗を展開する企業では、次のような課題が生じやすい傾向にあります。

  • 各店舗の契約担当が個別に対応し、社内にノウハウが蓄積されない
  • 相場データの収集に時間がかかり、貸主との交渉が後手に回る
  • 「今回は仕方ない」と増額を受け入れ続け、気づけば賃料負担が膨らんでいる

こうした課題に対しては、CRE(企業不動産)分野に知見を持つ外部の専門家を活用し、複数店舗の契約条件を横断的に見直す体制を整えることも選択肢の一つです。相場調査から交渉、契約書の是正までを一気通貫で支援を受けることで、担当者の負担を抑えながら、増額の抑制や賃料の適正化を図ることができます。

まとめ

店舗の賃料増額請求は、貸主の通知をそのまま受け入れる必要はなく、借地借家法に基づいた交渉の余地があります。重要なのは、契約条件の確認、客観的な相場データの収集、データに基づく交渉、そして合意できない場合の代替案の準備という一連のプロセスを踏むことです。これを徹底すれば、増額幅の圧縮や現行賃料での据え置き、場合によっては減額に導くことも十分に可能です。

多店舗展開により契約数が増えるほど、社内対応だけでは限界が生じやすくなるため、必要に応じて外部の専門知見を取り入れることも有効な選択肢となります。 なお、本コラムは一般的な情報の解説であり、個別の契約内容や法的手続きに関する具体的な判断については、弁護士など専門家にご相談ください。

参考資料

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