働き手不足や消費者ニーズの多様化、環境問題にともなう物流分野での課題を、デジタルやIT技術をもって解決する方法として注目されているのが「スマート物流」です。スマート物流には多くのメリットがあり、すでに導入している物流企業も多くあります。
今回の記事では、スマート物流の概要や利用されている技術、導入例や導入メリットについて解説します。導入時に発生しやすい課題や今後の対策についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
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スマート物流(スマートロジスティクス)とは
スマート物流とは、AIやIoTといったITやデジタル技術を活用し、物流を最適化・効率化する取り組みのことです。
スマート物流が推進される背景には、以下のような物流業界を取り巻く課題があります。
- 物流業界の働き手不足
- 都市部への人口集中
- 消費者ニーズの多様化(小口配達や再配送の増加など)
- EC事業の拡大・施設の老朽化による倉庫不足
- 環境への影響
これらの課題解決のために、内閣府では平成30年に「SIP(戦略的イノベーション創造ログラム)」の一課題として「スマート物流サービス」推進委員会を立ち上げました。現在は研究開発フェーズとして、データ基盤の構築と自動データ技術のふたつの技術開発が進んでいます。
スマート物流の物流・商流データ基盤は物流業界における課題解決とともに、サプライチェーン全体の最適化も目標としています。将来的には、以下のような新たな価値の創出も目指しています。
- サスティナブルな物流・商流
- 廃棄ロス削減
- フィジカルインターネット
- 省力化・省人化
- 商品の安全・安心の提供
スマート物流の主要技術
スマート物流で注目されている主な技術を順に解説します。
IoT(モノのインターネット)
IoTとは 「Internet of Things」の略で、モノのインターネットのことです。家電、建物、車など、さまざまなモノをインターネットでつなぐ技術を指します。IoTによってセンサーとデバイスによるリアルタイムデータの収集が実現します。
ビッグデータ解析とAI(人工知能)
ビッグデータとは、5つの要素(Variety(多様性) ・Velocity(速さ) ・Volume(データ量) ・Veracity(真実性) ・Value(価値))から成り立つデータの集合体のことです。また、AIとは人が実現するさまざまな知覚や知性をコンピュータで人工的に再現するものです。
AIにビッグデータを学習させ活用することで、人々のさまざまな行動や知覚、知性を人工的に再現でき、物流業界の業務上での予測分析や最適化に役立ちます。
ロボティクスと自動化技術
物流倉庫における作業用ロボットや協働ロボット、配送用ドローン、AGV(自動誘導車)などのロボティクス技術にIoTやAIなどの技術を活用することで、ピッキングをはじめとする倉庫業務が効率的に自動化されます。また、配送用ドローンやAGVによる無人輸送の実証実験も数多く実施されています。
スマート物流の具体例とサービス
スマート物流では、IT技術を活用しすでにさまざまな取り組みやサービスの提供が行われています。スマート物流で行っている取り組みや提供されているサービスの例を紹介します。
無人配送(ドローン、ロボット)
ドローンやロボットによる無人配送は、輸送ドライバーをはじめとした人手不足の解消に有効です。道路交通状況の影響を受けない配送も実現するため、交通渋滞の緩和、災害時の活用、過疎地や離島といった配送困難地域への配送、CO2排出量の削減による環境への配慮などへの活用も期待されています。
スマート倉庫管理システム(WMS)
スマート倉庫管理システム(Warehouse Management System・WMS)とは、入出庫管理や在庫管理、棚卸、帳票やラベル発行といった倉庫管理業務を一元管理できるシステムです。倉庫業務の効率化や人的ミスの防止、在庫状況の可視化を実現します。
自動運転車両
自動運転機能が搭載されているトラックを配送に使用することで、トラックドライバー不足の解消や配送業務の効率化などが期待されています。限定された地域の公道では、レベル4による自動運転が可能となった改正道路交通法が施行されるなど、自動運転トラックの実用化への取り組みも進められています。
コネクテッド車両
コネクテッド車両(コネクテッドカー)とは、ICT端末としての機能を搭載した自動車です。車両の状態や周囲の道路状況などの多様なデータをセンサーから取得し、ネットワークを通じて集積・分析ができます。荷主業者同士をマッチングさせる輸配送自動マッチングシステムを使うことで、コネクテッド車両による共同輸送も実現します。
スマート物流のメリット
スマート物流を導入することで、以下のメリットが得られます。
業務効率化による生産性の向上
スマート物流では、倉庫業務のシステムによる一元管理や、タブレットを使った情報送信などにより物流に関する各業務の効率化も実現します。適切な人員配置にもつながり生産性の向上にもつながります。
人手不足の解消
業務の効率化に加えてAIやロボットなどによる省人化も実現するため、人手不足の解消にも有効です。
コスト削減
省人化による人的コストの削減に加えて、センサーやスマートタグによる商品のリアルタイム管理により、温度や湿度による商品の劣化を防ぐことも可能です。廃棄物を減らすことによるコスト削減にもつながるでしょう。
顧客満足度の向上
作業が効率化することで、スピーディかつ確実な出荷や配送が実現します。消費者の元へより早く商品を届けられるようになり、顧客満足度の向上も期待できます。
適切な在庫管理による需要調整
スマート物流により倉庫業務を一元管理すれば、在庫管理や棚卸業務も効率化できます。過剰在庫や欠品を防ぐことにもなり、市場のニーズに合わせた商品在庫の変動にも対応できます。
スマート物流導入の課題
スマート物流は導入することで多くのメリットが得られる一方で、課題もあります。スマート物流の導入を阻む課題を順に解説します。
初期コストがかかる
スマート物流を導入する際には、機器やシステムを導入するときの膨大なコストが発生します。スマート物流にはコスト削減のメリットがあるものの、初期費用についても検討が必要です。
セキュリティ対策が必要
スマート物流によって物流業務の情報を共有することで、情報漏洩や外部からのシステムへの侵入といったセキュリティリスクが発生する可能性があります。セキュリティ対策をしっかりと行うことが重要です。
従業員への教育が必要
スマート物流に関する新システムやツールを導入する場合、操作方法や新しくなった作業手順など、従業員への教育が必要です。教育のための研修などにかかるコストについても検討しておきましょう。
未来のスマート物流に向けて
スマート物流で利用されているIoTやAI、ロボットなどの技術は今後も日々進化していくことが予測されています。将来的に、スマート物流は仮想空間と現実空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会である「Society5.0」の実現を目指しています。
スマート物流によってサプライチェーン全体の最適化や、スマートシティとの連携が取られることで、物流業界を取り巻く課題の解決と、より便利で発展的な社会の実現にもつながるでしょう。
まとめ
スマート物流の概要やおもな技術、具体的な取り組みやサービス、導入するメリットや課題について解説しました。スマート物流を導入することで、物流領域での課題解決につながるのはもちろん、将来的にはサプライチェーン全体の最適化による企業の持続可能性や成長性の維持にもつながります。初期コストや従業員の教育などの課題への対策を踏まえつつ、スマート物流の導入を検討してみましょう。
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