物流業界ではECサイトの普及による宅配便の増加、トラックドライバー不足、輸送で発生するCO2排出量の増加といった、さまざまな課題が発生しています。これらの課題を解決する、次世代物流システムとして注目されているのが「フィジカルインターネット」です。
今回の記事では、フィジカルインターネットが課題解決手段として検討されるようになった背景に加えて、フィジカルインターネットの概要や実現後の社会的展望について解説します。フィジカルインターネット実現のためのロードマップも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
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フィジカルインターネットが検討されるようになった背景
フィジカルインターネットが次世代の物流システムとして検討されるようになった背景について、需給面から要因を解説します。
需要面の要因
需要側の要因には、「EC配送の増加」と「多品種小ロット輸送の増加」があります。
EC輸送の増加
近年、インターネット通販の利用拡大やコロナ禍による非対面非接触での購入機会の増加により、宅配便の取扱件数が増加しています。国土交通省発表の「令和4年度宅配便・メール便取扱実績」によれば令和4年度の宅配便取扱個数は、50 億588 万個で、前年の5265 万個より1.1%増となりました。宅配便取扱個数は年々増加傾向にあります。増加が続くEC輸送に対応するために、フィジカルインターネットが注目されています。
多品種小ロット輸送の増加
EC輸送の増加に加えて、消費者ニーズの多様化、製造業のデジタル化によって小ロット輸送の需要も増加傾向にあります。小ロット輸送の増加にともない、トラックの積載効率(トラックの許容積載量に対する実際の荷物の割合)は低下しています。トラックの積載効率を上げて物流リソースの無駄を省く、物流全体の最適化が求められています。
供給面の要因
供給面の要因には「ドライバー不足」と「環境問題への対応」があります。
ドライバー不足
小口輸送や宅配便取扱量は増加しているものの、輸送を担うドライバーの数は減少傾向にあります。フィジカルインターネット実現会議では、2030年には2015年当時と比較し、トラックの供給量が全体の3割減少するという予測を出しています。
トラックの供給量が減少している背景には、時間外規制による労働時間の減少、トラックドライバーの待遇や処遇改善の遅れ、団塊世代の大量離職などがあります。
環境問題への対応
物流においても、貨物自動車からはCO2が排出されます。持続可能な社会の実現のために、政府も「カーボンニュートラル」への取り組みを開始しました。物流業界では、輸送や物流で発生するCO2排出量削減をはじめとした環境負荷の問題に配慮しながらの運用が求められています。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットの概要や検討の歴史について解説します。
コンセプト
フィジカルインターネットとは、物流リソースを共有し物流網を最適化する次世代の物流システムです。今まで自社でのみ管理していたトラックなどの設備や倉庫といった施設を企業間で共有することで、物流の効率的な稼働を実現します。
フィジカルインターネットは、物流をインターネットのパケット交換におけるデータ送受信方法に見立てたことが名前の由来です。インターネットで送受信されるデータは荷物、回線や通信網をトラックや倉庫に見立てて、データ(荷物)を分割したパケットとして共有の通信網(トラックや倉庫)で通信を行う=フィジカルな物資の輸送や保管を実現する手段として注目されています。
現状の輸送網の多くは、発・着の事業者同士をそれぞれ直接結ぶ輸送であることに対し、フィジカルインターネットでは、輸送途中にハブを設置し、積替えを前提とします。
検討の歴史
フィジカルインターネットは、2010~2011年にカナダ、アメリカ、フランスの3人の学者によって初期論文が発表されたことをはじめ、2013年にはヨーロッパのフィジカルインターネットの普及推進をはじめとした物流分野の研究開発サポートを行う団体「ALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)」が設立されました。その後アメリカが本社のAmazonとドイツの物流大手企業DHLが航空物流拠点のシェアといった、フィジカルインターネットの取り組みを開始しています。
日本では2019年からフィジカルインターネットの考え方が取り入れられるようになりました。2021年閣議決定された「総合物流施策大綱」にて言及されているなど、日本でのフィジカルインターネットの歴史は浅いものの少しずつ浸透しつつあります。
フィジカルインターネットが実現する社会
フィジカルインターネットを導入することで、実現する社会についてくわしく解説します。
効率化
現状の輸送は事業者ごとのチャーター車両による直接配送が主で、積載効率が低下し、トラック積載効率は40%未満となっています。フィジカルインターネットでは、輸送リソースを事業者間で共同利用し、トラックの混載や最適ルートでの共同配送が行われます。ハブ間の幹線輸送とラストワンマイルの端末輸送が共同配配送となり、積載効率を向上させます。実現には、標準化された規格の導入が必須ですが、標準化は効率化を更に促進します。
強靭化
フィジカルインターネットの実現により、積替と柔軟なルート設定が可能になり、供給・需要状況の可視化が進むことで、自然災害時の物流寸断に対する耐性が向上します。災害でルートが寸断された場合でも、迅速に代替経路の輸送キャパシティ情報を収集し、積替や他の物品との混載を行うことで、渋滞を緩和し、持続的で安定した輸送を実現します。また、在庫情報の可視化により、影響のない地域からの輸送も容易になります。
雇用の確保
フィジカルインターネットでは、物流の効率化と共有による労働環境の改善を実現します。現在の業務負担が大幅に減らせることに加え、サプライチェーン全体の経済成長を促進させることも期待できます。物流業務の効率化によりドライバー不足の解消と労働生産性の向上を通じて、企業の成長や従業員の賃金の増加などの好循環を生み、新たな雇用の創出も期待できるでしょう。
ユニバーサル・サービス
フィジカルインターネットは、企業や業界の垣根を超えた物流リソースや機能、情報を共有するデータプラットフォームの形成を要します。このデータプラットフォームを通じて買い物弱者問題や地域格差の問題を解消できる、ユニバーサルな物流サービスを提供する開放的かつ中立的な社会インフラとしても活用されることが期待できます。たとえば離島やへき地といった輸送資源が乏しい地域でも、フィジカルインターネットのデータプラットフォームと接続すれば、貨客混載をはじめとした地域の輸送資源を効率的に活用した輸送サービスの提供につなげられます。
経済効果
フィジカルインターネットの実現時には大きな経済効果が期待されています。フィジカルインターネットがもたらす新たな社会は、時間、距離、費用、環境面での制約から個人・企業・地域の活力と創造性を解放します。その結果、個人消費者も価値を創出するイノベーティブな社会の実現にもつながります。
環境
フィジカルインターネットは、輸送部門の温室効果ガスの削減により2050 年のカーボンニュートラルの実現にも大きく貢献することが期待されています。
実現に向けたロードマップ
フィジカルインターネット実現に向けた2025年から2040年までのロードマップについて解説します。
2025年まで
2025年まではフィジカルインターネットの準備期です。SPIスマート物流サービス物流標準ガイドラインの活用や、SCNやロジスティクスを基軸とする経済戦略への転換が開始されます。
また、2030年まで物流DXに向けた集中投資期間として、ドローン輸送やロボット配送といった物流拠点や輸送拠点の自動化・機械化の取り組みが重点的に行われます。
2030年まで
2030年までは離陸期として、計画的な物流調整や利益、費用のシェアリングルールの制定、企業・業種の壁を越えた物流機能・データシェアリングの仕組みづくりを2035年を目途に目標として開始されます。前年までに開始されている物流DXに関する取り組みは、具体的なサービスが展開されます。
2035年まで
2035年までは加速期として、2030年までにスタートさせた各取り組みやサービスの加速期に入ります。物流や商流を超えた多様なデータの業務縦断プラットフォームの整備や、BtoB、BtoCを含めたサプライチェーン全体の最適化、物流拠点の完全自動化の実現を目指します。
2040年まで
2040年はフィジカルインターネットの完成期です。前述した効率性、強靭性を持った物流と、物流業界における良質な雇用の確保、さらにフィジカルインターネットのデータプラットフォームのユニバーサル・サービスとしての活用の実現を目指します。
まとめ
フィジカルインターネットが検討されるようになった背景や概要、フィジカルインターネットがもたらす社会や2040年までのロードマップを解説しました。フィジカルインターネットを実現すれば、現在物流業界で抱えるさまざまな問題を解決できるだけでなく、雇用や経済活動、環境面でも多くのメリットを得られます。
現時点からフィジカルインターネットが実現するまでに多くの時間を要します。フィジカルインターネットを見据えて、今できる改善などご検討の際は、ぜひプロレド・パートナーズにご相談ください。
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