SDGsへの取り組みをはじめ、各企業には利益を出すだけでなく、社会的な責任を果たすための事業活動も求められるようになりました。物流業界でも、「ESG」という言葉を見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、物流業界におけるESGの概要とともに、ESG物流の具体的な取り組み、ESG物流を推進するための具体的な方法について解説します。ぜひ参考にしてください。
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ESG物流とは
「ESG物流」とは、物流業界におけるESGの取り組みを指します。ESGとは、「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(管理体制)」それぞれの分野で発生する課題解決に貢献する取り組みのことです。
特に近年ではESGを経営方針に取り組んだ「ESG経営」に取り組む企業も増加傾向にあります。海外ではESG経営に取り組む企業は第三者機関によって評価され、機関投資家や金融機関の投資や融資判断の材料とされています。企業が環境や社会への責任を果たすだけでなく、企業としての信頼性や優位性を担保し、企業競争力を維持するうえでも、ESG経営は重大なツールとして用いられていると言えるでしょう。
ESG物流は大手企業を中心に拡大し、物流業界全体で注目されています。物流がただものを消費者へ届けるだけでなく、環境への責任や、変化する物流市場の持続可能性への対応が求められていると言えるでしょう。
Eー環境への取り組み
ESG物流の環境(Environment)への具体的な取り組みについて解説します。
炭素排出量の削減
ESG物流の環境への取り組みのひとつに、地球温暖化の原因となる炭素排出量の削減があります。炭素排出量削減の具体的な取り組みとして、代表的なのが「グリーンロジスティクス」です。
2005年の物流総合効率化法の施行と2006年の省エネ法改正を機に誕生したグリーンロジスティクスの具体的な取り組みには以下のものがあります。
- 二酸化炭素排出量を削減できるエコドライブ推進
- トラックから鉄道やフェリー輸送へ切り替えるモーダルシフト推進
- グリーンエネルギー自動車(低公害車)の導入
- 輸送ルートを変更し走行距離や使用トラックを削減するミルクラン集荷
- 企業間でトラックを共有する共同輸送
たとえばモーダルシフトを推進することで、輸送における二酸化炭素排出量の50%から70%もの削減が期待できます。グリーンロジスティクスでの取り組みに加えて、反復資材の利用推進や、トラックの荷台積載の効率化などが、二酸化炭素排出量削減の取り組みとして行われています。
再生可能エネルギーの利用
ガソリンなどの化石燃料は使用時に二酸化炭素を排出します。そこで使用時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの比率を高めることで、二酸化炭素排出量を抑えられます。さらに、有限資材である化石燃料の使用を抑えることで、社会の持続可能性の面でも貢献できます。
循環型物流の構築
循環型物流とは、製品や商品を納品するための動脈物流にリサイクルや廃棄品を回収する静脈物流を一体化させる取り組みです。静脈物流とは、事業活動の結果として発生する返品や廃棄リサイクルに関連して発生する物流です。一般的に物流の効率は、静脈物流の方が低いと言われています。その静脈物流に焦点を当て、動脈物流と静脈物流全体での効率化を目指します。
Sー社会的責任を果たす物流
物流ESGでは、物流が従業員をはじめとしたステークホルダーだけでなく、物流全体や地域社会へも事業活動を通じて社会的責任を果たす取り組みも含まれています。物流が果たす社会的責任(Social)について解説します。
地域社会との連携
物流は消費者や企業へモノを届けるために、生活インフラとしての側面も持っています。物流を通じて、地域社会との連携や貢献を行うことも、ESG物流での取り組みのひとつです。たとえば物流施設事業を展開する日本GLP株式会社は22の物流施設にて地元自治体と災害協定を結び、災害発生時の救援物資の保管・配送拠点として稼働するほか、災害避難施設や一時避難場所として開放する取り組みを行っています。
従業員の安全と健康管理
企業の財産である従業員の安全と健康管理を担うのも、物流関連企業が行うべき社会的責任のひとつです。たとえば貨物自動車運送業や倉庫業を事業とする株式会社アルプス物流では、実際の労働災害を再現した社内動画や安全衛生ハンドブックを通じての安全週内による労働災害・事故防止への取り組みや、健康診断やストレスチェックの定期的な実施などの健康管理への取り組みを行っています。
サプライチェーン全体での社会的責任
物流業界におけるESGの実現へ向けた持続可能な取り組みは、物流の枠を超えたサプライチェーン全体の協力が鍵となります。例えば、上述したモーダルシフトの取り組みにおいて、物流事業者だけでなく、売り手と買い手が一体となって協力し、物流の頻度やリードタイムを計画的に管理することが求められます。このように、サプライチェーンのプレーヤーが一体となり取り組むことで初めて、物流における持続可能な改善の実現が可能となります。
Gー企業のガバナンス強化
ESG物流では、企業として持続可能な価値向上のために、ガバナンスの強化への取り組みも行います。ESG物流における具体的な企業のガバナンス強化(Governance)の取り組みについて解説します。
コーポレートガバナンスの実績
物流業界に限らず、企業には従業員や顧客、地域社会などのステークホルダーから信頼を得るために、公正かつ透明性の高い経営を実現する社会的責任があります。経営の透明性を担保するために、経営者の事業活動状況を監視・監督するための仕組みが、コーポレートガバナンス(企業統治)です。
コーポレートガバナンスでは以下のような仕組みを構築し、不祥事や経営悪化を防ぎ、ステークホルダーへの信頼性や利益を最大化するための経営を行います。
- 会社の機関や組織の内容の開示
- 内部統制システムの開示
- 役員報酬や監査報酬の内容の開示
- 業務執行体制を冠し・管理する仕組みの構築 など
コーポーレートガバナンスの実績を持つこと、および強化を続けていくことも、ESG経営での取り組みのひとつです。
リスク管理とコンプライアンス
ESG物流を含め、ESG経営ではリスク管理とコンプライアンスも求められています。
リスク管理(リスクマネジメント)については、すでに実践しているリスク管理に加えて、ESG関連リスクへの対応を行います。ESG関連リスクとは、企業に対して発生するESG(環境・社会・ガバナンス)に関連するリスクです。発生するリスクの性質から、サステナビリティリスク、非財務リスク、財務以外のリスクとも呼ばれています。具体的なESG関連リスクには、たとえば気候変動による作業環境の悪化、物流品質の低下といった環境から受けるリスクに加えて、廃棄物をはじめとした物流資源の大量処理といった、企業が環境へ与えるリスクも含まれます。両面のリスクを統合し、管理することもESG物流では求められています。
ESG物流でのコンプライアンスについても、従来のコンプライアンスに加えて、2024年問題を受けて荷主企業と物流企業の在り方・関係にも変化が生じています。政府より発表されたガイドラインにおいて、荷主企業としてすべきこと、物流企業としてすべきことが明示され、その実行が求められています。このように、社会情勢の変動に応じて法規制や社会的要請は常に改正や変動が起きるため、特に、荷主企業としては動向に注視し、対応できる体制を整えることが重要と言えます。
ステークホルダーとのコミュニケーション
持続可能な物流を目的としたESG物流を実現するためには、企業のみではなくステークホルダーも一体となっての取り組みが必要です。ステークホルダーへESG物流への理解を促すために、ヒアリングやアンケート、具体的なESG物流に関する取り組みの公開や共有といった、ステークホルダーと密にコミュニケーションを取ることが必須となります。
ESG物流を推進するためにできること
ESG物流を推進するためにできる、具体的な行動について解説します。
ESG物流の導入に向けた戦略
ESG物流の目的は、持続可能な物流の実現です。ESGそれぞれの分野における取り組みは、長期的かつ継続して行われる必要があります。具体的な施策や取り組みを決定した後は、分析や改善をしつつ、長期的に取り組みを運用するための戦略が求められます。
技術革新とデジタルトランスフォーメーション
ESG物流を推進するために有効な手段となるのが、技術革新とデジタルトランスフォーメーションです。たとえば現在人の手によって行われている配車や運送ルート管理といった工程を、デジタルツールやシステムを導入することで効率化や自動化が実現します。従業員の長時間労働の是正、配車や運送ルートの最適化による二酸化炭素排出量の抑制など、ESGにおけるさまざまな施策に有効です。
持続可能な物流のためのパートナーシップと協業
ESGのための戦略立案や、物流DXへの取り組みを自社で行おうとしても、ノウハウやリソース不足、改革を受け入れない企業風土といったさまざまな課題から困難な場合もあるでしょう。ESG物流の推進に課題がある場合、ESG物流への強みを持つ企業とパートナーシップを結び、サポートを得ることもおすすめです。
まとめ
ESG物流の概要や各要素での取り組み、ESG物流推進のための方法を解説しました。サプライチェーンにおける各企業がESG物流に取り組みことで、持続可能な物流が実現します。自社の規模や状況を踏まえ、今できることからESG物流への取り組みをはじめてみましょう。
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