労働人口の不足、市場の変化などさまざまな課題解決のために、各業界で業務の標準化が求められています。物流業界においても、国を上げて「物流標準化」を推進しています。
今回の記事では、物流標準化の概要や重視される背景に加えて、物流標準化を実現すると得られるメリット、推進するにあたって発生する課題について解説します。
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物流標準化とは?
物流標準化とは、国土物流の効率化を目的に、物流のソフト面とハード面を標準化することです。
物流業界では、以下の課題・問題を抱えています。
- 労働環境改善と労働力不足への対応
- 持続可能な物流への変革
- 環境に配慮した物流への転換
- 物流を起点とする産業競争力の強化
物流業界を取り巻く課題を解決する方法の一つとして、物流DXの推進や企業間の連携がありますが、大前提として物流を構成するソフト・ハードの各種要素の標準化が求められます。
物流標準化の代表的な例
物流標準化は、すでにさまざまな取り組みが進められています。物流標準化の代表的な例を解説します。
パレットや外装の規格化
現在物流上ではさまざまなサイズ・形状の商品が混在しており、パレット等への積載効率低下などを招いています。パレットや外装を規格化することで、荷受け作業が効率化するほか、積載や保管の効率上昇も期待できます。
具体的な取り組みとして、加工食品分野における外装サイズ標準化協議会による「外装サイズ標準化ガイドライン」策定や、 GS1 Japanによるケース単位への日付情報等の「バーコード表示ガイドライン」が策定され、取り組みが始まっています。
「外装サイズ標準化ガイドライン」とは、加工食品製造業者、卸・小売業者、物流事業者を対象に、外装サイズの標準寸法や、外装箱の最大重量などを規定することで均一化を図る指針です。「バーコード表示ガイドライン」では、ダンボールへの文字の位置やバーコードのサイズを明記させることで、バーコード表示の規格化を図っています。
データフォーマットの統一(EDI、電子タグなど)
物流事業者と着荷主の間でやり取りをする伝票や商品データには、さまざまなフォーマットが混在しています。伝票やデータフォーマットが統一されていないことで、伝票やデータごとに表示方法の確認が必要だったり、スキャンするバーコードの位置が見つからなかったりといったことで、荷積みや荷下ろし作業、納品時の検品作業が非効率となっています。各データフォーマットを統一することで、データ確認やバーコードスキャンが円滑になり検品や荷下ろし、事務作業の効率化が実現します。
具体的な取り組みとして、複数システムベンダーによる伝票電子化システム間の相互連携や、 SIPスマート物流サービスによる「物流・商流データ基盤」の開発、「標準化ガイドライン」策定が実施されています。「物流・商流データ基盤」は、物流事業における利害関係者間で共有して使用できるデータベースを整備する施策です。「標準化ガイドライン」はデータベースのデータ表現やマスタデータのほか、物流業務プロセスの標準化への指針です。
物流標準化の重要性が高まる背景
物流標準化は2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」にて取り組むべき施策とされ、国を挙げて推進されています。物流標準化の重要性が高まる背景について解説します。
物流コスト高騰
トラック運送事業におけるコストバランスは、4割が人件費、2割が燃料や車両に係る費用と言われています。近年燃料価格や自動車関連費用が上昇傾向にあり、物流で発生するコストも高騰しています。
国土交通省の資料によると、2019年から2023年の間で自動車タイヤは104%、自動車バッテリーは111%、自動車オイル交換は115%のコスト上昇率となっています。
物流で発生するコストの高騰傾向は今後も続くと予想され、物流業界では現在の物流品質を維持しつつコスト削減が求められています。そこでデータフォーマットや商品サイズ、パレットサイズの均一化をはじめとした物流標準化を実施し、業務を効率化することでコストカットを目指せます。
労働力不足
物流業界では少子高齢化、トラックドライバーの大量定年退職、2024年からの労働時間規制(2024年問題)により、深刻な人手不足となっています。国土交通省の資料によると、2024年問題によりこれまで運べていた荷物のうち、2024年度には約14%、2030年度には約34%が運べなくなる可能性があるとしています。
少ない人員で輸送や供給といったスムーズな物流を提供するためには、業務の効率化や自動化が求められています。物流の標準化が推進されれば業務の効率化や自動化が実現し、労働力不足への対策にもつながります。
カーボンニュートラルへの対応
物流はトラックでの輸送をはじめ、CO2排出量が多く環境への負荷が懸念されています。負荷が2050年「カーボンニュートラル」宣言を受け、物流業界では2030年度CO2排出量46%削減目標等の実現に向けての取り組みが行われています。
すでに自家用トラックから営業用トラックへの転換、環境対応車の開発・普及促進等の取り組みが行われていますが、今後もCO2排出量を安定的に削減するために、物流標準化による物流積載率の向上や業務効率化が求められています。
物流標準化が荷主企業にもたらすメリット
物流標準化は物流業界全体の課題解決への取り組みだけでなく、荷主企業にとってもさまざまなメリットをもたらします。物流標準化によって荷主企業が得られるメリットを解説します。
コスト削減
物流標準化により、データやシステム、パレットサイズや外装サイズが共通化されることで、データ別に異なる作業を行う必要がなくなります。外装カートンのサイズが均一化されれば、パレットへの積載率も上がり作業も容易になります。その結果作業効率化による作業時間や輸送費用の削減が可能となり、物流コストの削減につながります。
リードタイムの短縮
物流標準化により、サプライチェーン全体で物流業務が効率化されれば、原材料の調達から消費者の手元に商品が届くまでの流れの中で無駄が省かれ、より早く商品の供給が可能となるため、リードタイムの短縮にもつながります。顧客へより早く商品を届けられるなど、多様化する顧客のニーズへの対応や、サービスの拡大が業界として可能になります。
トレーサビリティの向上
物流標準化では、利害関係者間で配送ステータスのような情報共有が容易となるため、トレーサビリティの向上が実現します。たとえば物流DXによって物流プロセスやデータ管理を標準化することで、原材料の伝達から廃棄までの流れも追跡可能です。商品管理や情報伝達も円滑になるため、納期の遅延や誤配送の減少も期待できます
持続可能な物流の構築
災害や有事の際は、特に、企業間の連携が求められます。物流標準化が図られていないと連携にも時間を要します。物流標準化により連携できる基盤が整っていれば、物流を止めない、強靭かつ柔軟な物流ネットワークの構築にもつながります。サプライチェーンの供給を止めない、企業のBCP対策の上でも物流標準化は有効です。
標準化を進める際の課題
物流標準化は物流業界におけるさまざまな課題解決のために推進されている施策です。一方で、企業によっては、標準化に対する投資が難しい場合があります。パレットの標準化や外装カートンの標準化には初期コストが必要となります。また、オペレーションも変更しなくてはなりません。自社の短期的な利益の観点からは、さまざまな要因が物流標準化を阻んでいます。これから物流標準化を検討する上で、発生する主な課題を解説します。
企業単独の取組みの限界
物流標準化を進めるためには、外装サイズやパレット、データなどの統一への取り組みが必須です。そのためには、物流に関わる利害関係者すべてが業務プロセスの標準化へ連携して取り組まなければいけません。
たとえばサイズやパレットを統一化するためには、一時的に物流現場にも大きな負担がかかります。利害関係者は現場の負担を認識し、改善に向けて連携をとらなければいけません。企業単独で物流標準化を推進しようとしても、物流標準化にはつながらないからです。
ところが、企業によって資金力やリソース、規模が異なります。大手の企業は資金面やリソース面も潤沢です。サイズやパレットを統一化する場合なら、サイズの規定や文字の位置、バーコードの位置やサイズの規定をシステムに組み込み、ダンボールや外装、パレットに組み込むといったことも必要となります。資金面やリソース面が潤滑ではない中小規模の企業の場合、システムの導入や選定に頓挫してしまい、ほかの企業と足並みをそろえることが難しいということもあるでしょう。
ひとつの企業が物流標準化への取り組みを推進しても、ほかの物流に関する利害関係者が連携を取れなければ物流標準化は実現できません。他社や取引先と連携を取るのが難しい、自社内でのリソース不足や改革が難しい社風などの影響で物流標準化が進まない、といった企業が存在すれば、全体的な物流標準化を阻害してしまうことになります。
実例:パレット標準化の課題
パレットの標準化を実現する上で、ダンボールの標準化をめぐる課題が発生しています。パレットへ隙間なく積んで積載効率を上げるには、ダンボールの標準化も必須です。ダンボールの標準化が行われると、ダンボールに入れる商品個装の大きさを変えるために生産ラインを改修する、ダンボールの耐荷重の設計を変更する、ダンボールに入れる商品個数を変更する、といったように、サプライチェーン各所で混乱が生じる可能性が高くなっています。荷受けだけでなく製造メーカーや物流事業者など多数の利害関係者に関わる改革が求められることで、標準化が進まない課題があります。
実例:伝票標準化の課題
現在荷主ごとに伝票のフォーマットや印字位置が異なるため、複数の荷物を荷受けする業者の業務負担が大きくなっています。伝票を標準化することで仕分けや荷積み、荷卸し時の業務効率化につながるものの、データフォーマットによって伝票標準化が阻まれています。
特にBtoB物流では荷主ごとに異なるデータフォーマットを採用しているため、標準化した場合、物流元請け側が荷主のフォーマットを統一フォーマットへ変換する手間が発生し、データの変換や修正作業を行う負担も出てきます。荷主側だけでなく、物流元請け側の負担軽減のための施策が求められています。
実例:納品データ標準化の課題
荷主と着荷主の間などで納品データが標準化されれば、検品をはじめとした業務効率化や、賞味期限など在庫管理の適正化にもつながります。一方で納品データの標準化は「物流・商流データ基盤」、「港湾関連データ連携基盤」も含めて、全体のデータ連携や共有の全体像の明確化が欠かせません。複数のプラットフォーム間の互換接続や連携を実現するためには、国が標準化、ルール策定などの調整を行うことが求められています。また、全体のデータ連携を実現するには大企業だけでなく中小企業におけるデジタル化も推進しなければいけません。中小企業は資金やリソース不足などの観点からデジタル化が遅れている企業もあり、全体的に足並みをそろえるための、国の支援の充実が求められています。
まとめ
物流標準化の概要や具体的な施策、物流標準化によって企業が得られるメリット、物流標準化を阻む課題について解説しました。物流標準化は持続可能な物流のためにも、物流業界全体で推進すべき取り組みです。自社でもできるところから、物流標準化への取り組みをはじめましょう。
プロレド・パートナーズでは、企業の課題を適切に把握し、物流標準化の導入サポートを一貫して提供しています。物流標準化への施策を検討している際には、ぜひご相談ください。
SCM/3PL/物流のお悩みを解決したい方へ
プロレド・パートナーズでは、現状把握から施策の立案・実行まで一貫したサポートが可能となります。SCM改善について皆様からのご相談をお待ちしております。